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中島弘貴
by ototogengo
中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、絵、音楽、写真をやります。

2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。


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「ヒスイインコについて」

ヴゥヴゥーーーーーーー、
ヴィーーーーーヴゥーーーーーーー、
二重奏で、冷蔵庫の唸りが聞こえる。片方は右斜め前からで、もう片方は左斜め後ろから。しかし、この家に冷蔵庫は一つしかないはずだ。原因は分かっている。ここ2週間ほど仕事続きで、朝に家を出て、夜中になって眠るためだけに帰ってくるような生活を繰り返していたせいだろう。前者は本物の冷蔵庫の唸りで、後者は半年ほど前から飼っているヒスイインコの鳴き声に違いない。


南洋のヌーゼーラントに生息するヒスイインコは、緑がかった水色の、カワセミに似た美しい体色を持つ、体長20cm~25cmの鳥である。ただし、カワセミとは異なり、オウム目によく見られる特徴である長細い尾は薄い桃色を呈し、体色との対照がやはり美しい。
ヒスイインコは恐ろしい印象を抱かされる多くのオウム目の眼とは異なる、黒目がちな小ぶりの可愛い眼を持っているが、その視覚はそれの発達している鳥類の中では例外的といえるくらい極端に鈍い。しかし、その代わりに鳥類の声を発する器官である鳴管と聴覚が異様に発達している。彼らの音の可聴域は100~18,000Hzと、人間と比較しても狭くすらあるのだが、その感度は約30倍と、圧倒的に優れている。
上へ挙げた特徴によって、ヒスイインコは巧みに音真似をする。耳にした音を、ほぼ完璧に再現することが出来るのだ。ちなみに、オウム目が人間の声真似をすることはよく知られているが、それは彼等が仲間と認識したものの鳴き声を真似する習性を持つためだとされている。そして、その認識は視覚によって決定されるところが大きいという。となると、視覚の圧倒的に乏しいヒスイインコは、ほぼ無作為に周囲の音を真似することになる。

ヌーゼーラントの北東部の殆どは、鬱蒼たる大密林に占められている。そこにおいては、人の話し声や狼の鳴き声、水のせせらぎなどが樹上から聞こえてくるという摩訶不思議な現象の報告が、2000年以上前からなされてきた。そのためもあってか、文明の黎明期における原地民は、目に見えない天界が樹々と繋がって存在すると信じ、作物の種蒔き時には密林の樹々に縄を巻きつけ、そこから様々な形をもつ、赤土から作った小さな土器をたくさんぶら下げて、豊作を願ったという。その現象の原因であるヒスイインコの存在が認知されてからも、その風習は残り、樹と天界への信仰はヌーゼーラント全域に及んだ。19世紀後半に発見の進んだ、ヌーゼーラントの各所に存在する洞窟に残された壁画が、それを物語っているという。


・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
ヴゥーーーーーヴゥーー、
ヴィーヴゥーーーーーーーーーーー、
自分のいない部屋の中で音を発するものといえば、冷蔵庫しかないのだ。冷蔵庫の声ばかりを2週間近くも聞き続けていれば、いい加減ヒスイインコの彼も、それを覚えてしまったのだろう。それにつけても、この声真似の、何とも見事なこと!
ヴィーーーーーヴゥーーーーーーーーーー、
ヴゥヴゥーーーーーーー、

(空島出版『動物のはなし』より抜粋)
by ototogengo | 2009-01-21 00:01 | 空島出版
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