中島弘貴
by ototogengo


昨日の話

痩せっぽちの、短い白髪に浅黒い顔のおじいさんが、どこか遠くを見やりながら話し掛けてくる

青年はそれに応える

おじいさんはさらに話し続ける

青年は相槌を打つ

おじいさんはまだ話しながら、右の頬を左手でこすり始める

青年は相槌を打ちながら、その様子を見ている

おじいさんの人指し指に黒ずんだ何かが付着し始め、細い塊になって指と頬に挟まれながら転がる

青年は垢だろうか、と訝しがって見る

おじいさんの頬と指の間から、黒ずんだ塊がこぼれる

青年は話を聞く姿勢を保ったまま、それを目で追う

それはくるくると回りながら、落ちていく

・・・・・・・・・

ああ

それは蟻だった

頭に光沢のある蟻だった

蟻は着地すると、事も無げにすぐさま歩き出す

おじいさんは別のどこか遠くに視線を移し、なおも話している

なおも頬をこすっている

ぽろ、ぽろ、ほろ、ほろ、蟻が落ちる

青年は空で返事をしながら、それらに注目している

おじいさんは、なおも話し続ける

なおも話し続けながら、次は首をこすりはじめる

やはり、ぽろ、ぽろ、ほろ、ほろ、蟻が落ちる

蟻たちは着地すると、事も無げにすぐさま歩き出し、すこし歪んだ列になって進んでいく

あっちとこっちの方向に、合わせて二つの列になって、進んでいく
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by ototogengo | 2009-08-31 01:36 | はなし
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