中島弘貴
by ototogengo


『光の果実』

張りつめた夜の空気が裂けると、その裂け目から星のように淡い青や白や赤や黄をした光の果実たちがほろほろと、ぴかぴか光りながら零れ落ちた。両手を器にすると、重さのないたくさんの果実がみるみる、みるみると空高くまで積み上がっていった。
光の果実が落ちないようこのうえなく慎重に体を運び、緊張しながらこわごわと家へ向かったので彼の歩みはとても遅かった。しかし、果実は一つ、二つ三つと転がり落ちた。そして、それらは地面に着く前に空気のなかへ消えていくのだった。
ようやく彼は自宅にほど近い曲がり角まで来たが、それでもゆうに百を超えるであろう果実が残っていた。もう大丈夫だろうと半ば安心しつつそこを曲がると、同じく両手の平の上で塔のように積まれた光の果実を運んでいる女の人がふいに現れたのだ。
「あっ」
「きゃあっ!」
ぶつかった二人はそろって声を上げたが既に遅かった。崩れ落ちた果実たちは光を弱めながら次第に輝く霧のようになり、ついには闇のなかへ吸いこまれるようにして消えてしまった。
彼の手には三つ、彼女の手には二つの果実だけが残されていた。しばらくは二人ともが呆気にとられて固まっていたが、ふと目が合うとどちらからともなく笑った。
「すみませんでした」
「こちらこそごめんなさい」
「良ければお一ついかがですか」
「いえ、これでいいんです」
と、二人は微笑みながら会話をし、
「そうですか。では、失礼します」
「はい。じゃあ」
と、それだけを言って別れたのだった。ともにゆったりと歩いて振り返ることはなかったが、二人の顔は晴れわたっていた。温かさが彼と彼女の内側から生まれており、やわらかくなった夜にぼんやりとひろがっているのだった。
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by ototogengo | 2012-02-06 11:24 | はなし
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