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中島弘貴
by ototogengo
中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、絵、音楽、写真をやります。

2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。


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『小人の男の子と女の子』

小人たちは一枚葉のコートをはおっている。舟に似た枯れ葉のソメイヨシノ、紅葉したぎざぎざの楓、黄色や黄緑色をして末広がるイチョウ、青青として照る唇形の椿。風の吹くなか、思い思いの葉をまとってはしゃぎ回っていたのだ。
たった一人なじめずに隅っこでたたずんでいるのは、大きな芭蕉の葉を体にぐるぐる巻きつけた男の子だった。うつむき、さみしさのあまりに口を少しとんがらせている。そこへ、赤く色づいたマルバノキの葉を着た少女がやってきた。そして、うたうようにやさしく
「どうしたの?」
と話しかけるのだった。男の子ははにかんで
「だいじょうぶだよ」
と応えるなり、ぷいとあっちを向いて駆けていく。
女の子は見えなくなるまで彼の後ろ姿を見送ったあと、列から離れて歩く一匹の蟻を見つけるのだった。玉のような目をのぞきこんでも、迷うようにあちこちへ向かう足取りを見ても、彼女には蟻の気持ちが分からない。蟻は表情も言葉ももたないのだった。
そうして一心に蟻を見つめる彼女の肩をたたく者があった。ふりかえると、そこにはさっきの内気な男の子の姿があった。彼が背中に回していた右手を前に持ってくると、そこには真っ赤な、陽をうけて光るモリイチゴの小さく丸い一粒が手の平に乗っていた。それは小さな、とは言っても彼のさらに小さな握りこぶしよりも少し大きいのだった。
「さっきはあ…ありがとう」
彼は目を下にそらしながら言った。
「いいえ」
まっすぐに見る彼女が笑顔で明るく返した。
「これ…、きみのふくににあうとおもう。だからね、おれいにあげる」
「どうもありがとう」
「ええと、きみ…きみのなまえはなんていうの?」
「わたしはまりって言うの。あなたは?」
「ぼくはね、じみっていうなまえなんだ」
二人はそれからも話しつづけた。男の子は恥ずかしかったがとてもうれしく、たのしかった。しあわせなことに、女の子もまたたのしかったのだ。
by ototogengo | 2012-02-17 20:51 | はなし
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