中島弘貴
by ototogengo


『光の結晶』

ここに引っ越して来たばかりの頃の、よく晴れた日の夕方の出来事。
小さな半透明の光の結晶を頭や服の上にびっしりとつけ、息子が帰って来た。それらはさまざまな金や銀や銅色を基調としており、見る角度によって七色に照り映えるのだった。太陽の光を浴びながら長く遊んでいたせいだろう。雪の結晶は六角形を基本に成長するが、光の結晶は木や珊瑚の枝に似た形が放射状をなして全体が円や楕円に近くなる。
妻が「この辺りではこんなことがあるのね。こんなにもいっぱいつけて。早く拭かないと、床や家具が濡れちゃうわ」と言い、息子は「えー、もったいないよ。不思議できれいなのに」と言う。そこで、私は二人に「拭く必要はないんだよ。光の結晶は液体を経ることなく固体から気体になるものなんだ。ドライアイスと同じだよ」と言った。
さて、それから光の結晶はおとなしい炎のようにちらちら、ぼおぼおと輝きあがって空中の四方八方へ真っ直ぐに放たれながら消えていった。それが全てなくなると、部屋のなかは少し明るくなった。それにしても、あの経緯を眺めながら夕食をとるのは、なかなか乙なものだったな。
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by ototogengo | 2013-01-26 16:59 | はなし
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