中島弘貴
by ototogengo
中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、音楽、絵、写真をやります。

2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。空島出版主宰。


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『影の授業』

ぼけっとした長身の男が教室に入ってきた。歳の頃は三十というところだろうか。髪に寝癖がついているし、皺の寄ったシャツがズボンからはみ出している。先生から紹介を受けたあとで挨拶をしたが、「はじめまして」の言い方も気が抜けていて頼りない。
授業が始まると、なんと彼の影が講習を始めた。実体の男の方はと言えば、資料のページをめくったり、黒板にチョークで代筆をしたりと、影の助手を務めている。
それにしても、大した影だ。博覧強記、かつ観察力も分析力も確実で、話の組み立ては巧妙、その声には自信に裏付けされた威厳がこもっている。そのうえ、人格者ときている。優等生への対応と劣等生への対応に全く差を付けないし、助手である彼の本体へも、事あるごとに謝意を表明している。もちろん、髪にも服装にも乱れはない。

その日、家へ帰って自室に戻ってからも、わたしの影とわたしとは、彼の影の話で持ちきりだった。
「それにしても、本当にすてきな影だったね」
と、改めてわたしが言うと、
「うん、同感。同族からすると、ちょっと憧れちゃうなあ。だけど、そのうちにあなたも、彼みたいに影から使われるようになるかも知れないよ。現に、前の試験の成績は私の方が良かったからね」
と、茶目っ気たっぷりに影が返す。
「そうだね。だけど、僅差だったよ。その前はわたしの方が良かったし」
と、わたしも茶目っ気を込めて。
「まあね。それにしても、昔に生まれて来なくて良かったよ。今が三十年前だったら、あなたと私が同等だなんて有り得なかったからね」
影はしみじみと言い、
「今だって差別が完全に消えたとは言えないけど、まあ、遥かにましにはなってるもんね」
と、付け足すのだった。
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by ototogengo | 2013-02-15 19:47 | はなし | Comments(0)
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