中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、絵、音楽、写真をやります。
2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。 【SNS】 mixi 【音源試聴】 soundcloud my space お仕事のご依頼、メッセージ等はこちらまで ↓ man_polyhedron@hotmail.co.jp カテゴリ
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『星雲を放す』
部屋の中で星雲を育てていた。緑や蒼や紅や紫に移ろう全貌が息づきながら収縮し、靄のごとく霞んだり、血のごとく濃密になったりする。時にオーロラを思わせる渦を巻いては流れて光り、時に大爆発を起こしては眩い輝きをしばらく保つ。不規則な電飾のように星の球がちかちか、ぺかぺかと点滅することもしばしばだった。
ある夜、繁殖して数と大きさを増した星雲が眠りを余りにも酷く妨げるので、堪らず窓を開け放った。吹き込む風に、カーテンが大きくゆれた。 部屋にはたった二つの子供星雲だけが残り、他は全て泳ぎながら外の夜闇へと四散した。彼らが曲がり角や藪の中や空の向こうに消えるまで見守り、心の内で「さようなら、元気でね」を言ってから窓を閉めた。 犬や烏に食べられたり、猫や人の子に弄ばれたり、強風にさらわれたりして、生き残れるのはほんの一部であるに違いない。しかし、あのまま部屋の中に居続けたら全滅の恐れもあった。 そうとは分かっていても、わたしは半ば自棄になって彼らを逃がしたために、自責の念に苛まれた。それから、「これで良かったんだ」「いずれこうするしかなかったんだ」と胸中で繰り返しながら、寝苦しい夜を過ごした。再び横になったわたしの頭上では、二つの子供星雲がまるで何事もなかったかのように、光りながら無邪気に遊んでいた。
by ototogengo
| 2013-02-24 23:34
| はなし
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