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中島弘貴
by ototogengo
中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、絵、音楽、写真をやります。

2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。


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詩 2

2017年12月23日~2018年1月2日に書いた三作。


「星ぼしの夢」

黒い虚空は魂で満たされていた
極小の水の粒が無数に漂いはじめ、その一粒ずつに魂がしみこんだ
たくさんの大きな苔が青々とした葉をつややかに広げ、漂う水の粒たちを全身で呑んだ
渦巻く強風が吹きはじめ、空気を乾かした
すると、苔たちの朔が徐々に開き、胞子を夥しく放った
その胞子たちは多彩に煌く星ぼしで、煙のようでも川のようでもある流れを幾つもつくった
星ぼしは魂を受けついでおり、そのそれぞれが夢を見た
星ぼしは夢のなかで魚になり、宝石になり、ヒトデになり、鳥になり、放散虫になり、家になり、甲虫になり、山羊になり、花になり、巻貝や二枚貝になり、樹になり、珊瑚になり、蝶や蛾になった
さらに、星ぼしは夢のなかで植物から動物へ、動物から菌類へ、菌類から鉱物へというように、次から次へと姿を変えた
すると、それらになった気がした
いや、星ぼしはその輝きを纏ったまま、本当にそれらへと変身したのだった
夢は現実であり、現実は夢だった
その代償として、星ぼしは命を大きく縮めることになった
彼らは魚として、獣として、鳥として、植物として、人として夭折するのだった
その大部分が老いさらばえ、苦しんで死んでいったのだった
それでも、それらの魂は決して死ななかった
この世界が終わるまで、魂は死なないだろう
あるいは、この世界が終わっても死なないかもしれない



「世界樹」

世界樹は千年に一度だけ脱皮する
全身の皮が剥け、そのなかから透明な本体が現れる
剥けた皮は世界樹の根元にうず高く積もり、やがて樹の養分になる
脱皮した世界樹は徐々に色づき、百年をかけて元の色になる
同じ時間をかけて、その柔らかい幹や枝葉が硬くなる
そして、脱皮する前よりも一まわり大きくなる

わたしは百年も生きられない
だが、運良く世界樹の脱皮の時期に居合わせた
わたしはその変化を愛しながら生きることができた
例えば、世界樹の葉の一枚
脱皮したばかりの透明な葉をすかして、世界樹の奥にある星ぼしが見えた
それによって、その輝きは水面をとおるように乱反射し、ますます彩り豊かに、ますます美しくなった
透明な葉が少しずつ色づく
それとともに、それをすかして見える星ぼしの輝きもすばらしい移ろいを見せた
透明だった葉が半透明になり、とうとう不透明になった
もはや、その奥の星ぼしの輝きはほとんど見えなくなったが、別の美しさがそれに取って代わった
葉が透明だったころには不確かだった葉脈が鮮明になり、その巨大で緻密な模様がわたしに眩暈をおこさせた
その葉の一枚だけで、地球の表面積より何千倍も大きいのだ
世界樹は大きすぎて、わたしの一生ではそれをとても知り尽くせない
しかし、だからこそ、わたしは世界樹を愛し続けられた

わたしは死ぬ
世界樹が完全に色づく前に死ぬ
だが、わたしはそれがこれからどのように成長するのかを想像できる
百年足らずのわたしの経験が、わたしの想像力を育んだ
その経験はわたしだけのものではない
わたしの前に生きた多くの人が世界樹を愛し、知ろうとし続けてきた
わたしはその記録を読み、聞き、わたし自身の経験と溶け合わせた
わたしの経験には、何と多くの経験が凝縮されていることだろう!
そして、そのわたしが記録を残し、それをさらに伝えていく
これから何百もの世代を経て、記録は数知れぬ記録を孕み、眩暈をおこさせるほど豊かなものに育つだろう
それでも世界樹を知り尽くせる誰かが現れるとは、とても思えない
それほど世界樹はすばらしい
わたしのあとに続く多くの人が世界樹を愛し続けられますように



「ところですらないところ」

色あせた日常
心の飢えは激しい
人の世に美が足りないからといって、自分まで醜くすることはないのに
自然界の緻密な織物よ、人生の結晶としての芸術よ、ゆさぶってくれ
地を通りぬけた先の天を感じさせてくれ
その天は上にあるわけでも下にあるわけでもない
それは向こう側の開けたところにある
無限に時空間が開けるところ
ところですらないところ
ああ、美と響きあう魂を見つけた

体の細胞の一つ一つが星に変わり、多彩に瞬く
心の闇もまた星空に変わり、体の星ぼしと呼応して歌う
わたしはそれらの星ぼしと触れあう
ところですらないところそのものになって
星ぼしから芽や花や葉のついた光の蔓が伸び、宙のなかで結びつく
曲線らしい曲線、直線に近い曲線、渦巻きに螺旋、波うって広がって弾け飛んで落ちて
緻密な模様を描いて結びつき、絡みあっては新たな星を生む
わたしを超えて自由へ向かえ

by ototogengo | 2018-01-02 11:44 |
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