中島弘貴
by ototogengo
中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、音楽、絵、写真をやります。

2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。空島出版主宰。


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<   2011年 12月 ( 6 )   > この月の画像一覧

『星をまるめる女の子』

彼女は最近新しい仕事をはじめた。薄い手袋をはめた両手で、できたてのいびつな恒星をまんまるく整える作業をしているのだ。超高温のやわらかいそれが温度を安定させて固まるまでにほぼ完璧に仕上げ、やすりで磨きあげるという次の工程を担当する者に渡すのだが、こつを覚えるまではなかなか難しくて何度も何度もやり直した。今でも、少しでも気を抜くと手元が狂って失敗してしまう。

休けいに入ってから少しの間、彼女はいつも星を作る全工程を一途に、しかし夢を見るような心地で眺める。
まず、雲や氷や石や金属でできた星の素を耐熱加工したダイヤモンドの串で刺して炉に入れ、それを回しながら満遍なく火を通し、どろどろに溶けだしたり爆発を起こしたりする直前に取りだす班があり、それを彼女の属する班の者たちが先に記したとおりにまるく整える。次に、一つ一つ異なる大きさや模様や輝きを持つそれらは次の班によってつるつるに磨かれ、最後の班の者たちによって宙(そら)の四方八方の近くや遠くに放り投げられ、そうして落ちついた場所でちかちかぴかぴか光るのだ。
眺めながら、そのように大切で美しい仕事の一端を担っていることを実感すると、彼女にはうれしくて誇らしい気持ちが湧いてくるのだった。

その仕事をはじめてから、彼女は眠りにつく前に自室の窓から星空を眺める日課をつくった。あふれる感動と親しみをこめて新しく加わった星ぼしを順番に見つめてから空の全体をじっくりと見まわすのだ。彼女にとってそれらの星ぼしの一つ一つはかけがえがなく、それが日に日に増えていくことはえも言われぬよろこびだった。
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by ototogengo | 2011-12-31 20:46 | はなし | Comments(0)

『山の冬』

「いくら大食らいのこのおれでも、これを全部飲み干そうとしたら腹がはりさけちまう」
山のぬしはびゅうびゅうごうごうと響きまわる吹雪を全身に受けながらいった。
「おお、このままじゃ芯まで冷えきってがちがちに固まっちまう」
そこで、彼は例年どおりぬくぬくした地中の奥深くまでもぐり、暖かくなるまでこんこんと眠りつづけることにした。
「はっは、ふう、ほっほ、ふう。はっほ、ふう、ほっは、ふう」
青から緑へ、緑から黄へ、黄から橙へ。彼は寒色から暖色へいたる土や砂や石の層をいくつもいくつも駆けぬけ、橙と赤のちょうど中間にたどりつくと、うつぶせになって身を横たえた。
「ああ、いい気持ちだ。背中は秋のまんなかみたいにひんやりして、お腹は春のまんなかみたいにぽかぽかしている」
そこからさらに何層か進んだところでは石がどろどろに溶けあい、真っ赤に燃えかがやいて湯気をたてているが、そこまでいくと跳びあがらずにはいられない熱さなのだった。
「一度しか行ったことがないが、あんなところはもうこりごりだ。真夏どころじゃないし汗ばむどころじゃない、むにゃむにゃ…」
彼はそう口ごもりながらぐいぐいと眠りに引きこまれた。背中がお腹と同じようにぽかぽかしはじめるときまで再び目覚めることはないだろう。
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by ototogengo | 2011-12-26 01:42 | はなし | Comments(0)

それぞれがそれぞれの革命を生きねばならない

せっかく出会えたんだから殺し合わず生かし合いたい。せっかく同じときを一緒に過ごしているんだから。
近くにいても遠くにいても、そうあれるよう自立を促し合おう。おれときみ、あなたとあなた、彼と彼女、誰も欠けることのない一人一人全員の力が必要だ。

きれいごとではなく、一人残らずしっかりと感じ、思い考えて行動し続けることがすばらしい世界をかたちづくることに直結すると信じている。自分はその一人として、一生涯できる限りを実践していく。

そうだ。われわれはみな、それぞれがそれぞれの革命を生きねばならない。
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by ototogengo | 2011-12-25 03:20 | 日記 | Comments(0)

「センコウハナビゴケ」

半日陰地の樹の根元や岩上にマット状の群落をつくるタマゴケ科の一種。線香花火の先端の火だまりのような、明るい橙色~赤色の真ん丸い蒴(※)を黄ばんだ薄い茶色の柄のてっぺんにつける。雨の降る日に雫が当たると、それらの一本一本をふるふると揺らしながら、火花を散らせるように金色の胞子をぱちぱちと空中に放つ。その様子もまた線香花火にそっくりだ。本州から九州にかけて見られるが、関西以西に多い。国外では中国、台湾、東南アジアに分布している。

※胞子を容れるところ

(空島出版編纂『図鑑』より抜粋)
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by ototogengo | 2011-12-18 16:48 | 空島出版 | Comments(0)

「昼焼けについて」

雲一つない澄みわたった快晴はごく稀に昼焼けという現象を起こす。
朝から徐々に白くなり続けていた太陽の周囲の空が正午前後に最も、真っ白といえるほど白くなる。それはくたくたとすっかり煮つめられたような白で、そのなかに青、緑、黄、赤、紫、そしてその間のあらゆる微妙な色をも含むどこまでも淡く細かな色の粒子がさわさわと充溢し、息づいているのだ。

そのとき、太陽から同心円状に離れるに伴って空の色はなめらかに深く濃くなっている。水平線や地平線近くの空は時に水色、時に青、時に緑青で、はっとするほど鮮やかでありながら透みきって見えるので、体から抜け出した形のない自分がそこまで真っ直ぐに跳んでいって引き寄せられ、溶けこんでいくのだ。

昼焼けにはまだまだ多くの魅力がある。空と山や海や町との境はくっきりとして見事だし、凪いだ、もしくは荒れた水や窓の面(おもて)に映しだされるその色にもまたうっとりさせられる。
何よりも惚れ惚れするのは、そのうつくしい太陽と空が凝縮された雫や水たまりを見ることだ。昼焼けの多くは極めて寒い冬の日、とりわけ空気に不純物の少ない雨の上がった日に見られるので、朝露や蒸発しきらない雨の雫、それに水たまりがそこかしこに見られることがよくある。
草や苔の一面に繁った平原や河原には星のようにおびただしく輝く雫たちが、少し起伏のある土の広がった空き地や干上がりかけた池にはうねうねと、ぽこぽこと点在する水たまりの群れが見渡せてすばらしい。
しかし、昼焼けの日においてはベランダの物干しざおから垂れさがる二、三の雨の名残りや、工事現場にある不格好な水たまり、道端の雑草を彩るささやかな水滴たち…身近にあるそれらを見るだけで、いや、むしろそれらに限りないうつくしさを発見して思わずため息を漏らす瞬間こそが最も幸福に思われるのだ。

(空島出版『気象のはなし』より抜粋)
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by ototogengo | 2011-12-13 11:17 | 空島出版 | Comments(0)

サン=テグジュペリ『人間の土地』の序文(堀口大學訳、新潮文庫刊)

ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。理由は、大地が人間に抵抗するがためだ。人間というのは、障害物に対して戦う場合には、はじめて実力を発揮するものなのだ。もっとも障害物を征服するには、人間に道具が必要だ。人間には、かんなが必要だったり、鋤が必要だったりする。農夫は、耕作しているあいだに、いつか少しずつ自然の秘密を探っている結果になるのだが、こうして引き出したものであればこそ、はじめてその真実その本然が、世界共通のものたりうるわけだ。これと同じように、定期航空の道具、飛行機が、人間を昔からのあらゆる未解決問題の解決に参加させる結果になる。

ぼくは、アルゼンチンにおける自分の最初の夜間飛行の晩の景観を、いま目の当たりに見る心地がする。それは、星影のように、平野のそこここに、ともしびばかりが輝く暗夜だった。

あのともしびの一つ一つは、見渡す限り一面の闇の大海原の中にも、なお人間の心という奇跡が存在することを示していた。あの一軒では、読書したり、思索したり、打ち明け話をしたり、この一軒では、空間の計測を試みたり、アンドロメダの星雲に関する計算に没頭したりしているかもしれなかった。またかしこの家で、人は愛しているかもしれなかった。それぞれの糧を求めて、それらのともしびは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っていた。中には、詩人の、教師の、大工さんのともしびと思しい、いともつつましやかなのも認められた。しかしまた他方、これらの生きた星々のあいだにまじって、閉ざされた窓々、消えた星々、眠る人々がなんとおびただしく存在することだろう・・・・・・。

努めなければならないのは、自分を完成することだ。試みなけれならないのは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っているあのともしびたちと、心を通じ合うことだ。



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あまりにもすばらしいので紹介させて頂きました。何て真摯でうつくしい、あたたかい心の現れた文章だろう。
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by ototogengo | 2011-12-09 01:24 | 本や音楽などの紹介 | Comments(0)