中島弘貴
by ototogengo
中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、音楽、絵、写真をやります。

2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。空島出版主宰。


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<   2012年 01月 ( 5 )   > この月の画像一覧

『凍りついた空』

今朝はあまりにも寒かったので青空がまるごと凍りついていた。青色は深みを増し、その角ばって透きとおった結晶は太陽の光を乱反射させた。風と空気の冷たさに震えながらも、わたしを含めた数人が思わず足を止めて見とれていた。
凍りついた空は昼間に溶けてしまったが、深夜になれば再び固体に変わるだろう。深い深い藍色の結晶の向こうがわから、少し太くなった三日月がじわりと光りを広げるに違いない。
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by ototogengo | 2012-01-28 20:32 | はなし

『布団のなかの繭』

「寒いからといって布団のなかであんまり長く縮こまっていると繭(まゆ)になりますよ」
母親が言ったので、そうしてぬくまっていた幼い娘はこわくなり、ようやく布団から抜けだした。朝のやさしい光がカーテンの間からさしこんでいて、少しまぶしかった。

さて、着がえを終えた彼女は食卓について朝食をとっていた。そこで彼女は
「おかあさん、さっきのおはなしほんとう?」
と、きいた。
「ええ、本当よ。布団のなかでじっとしているうちに体じゅうから細い細い糸がたくさんたくさん出るの。それがぐるぐるぐるぐる体をおおってね、最後には繭になって春がくるまでそこから出られなくなるみたいよ」
と、母親が答える。
なんでも、同じようにして起きるのをぐずっていた近所の男の子がそうして繭になってしまったのだという。春になってようやく繭の後ろがわが割れ、彼がそこから抜けだすと、その背なかにはふさふさとした毛でおおわれた翅(はね)が生えていたということだった。
「おかあさん、そのほかはまゆになるまえとおなじだったの?」
「ほとんど同じだったけど肌が少し青白くなっていてね、頭からはやわらかい角が二本生えていたみたいなの。櫛(くし)みたいにいくつにも分かれた、ほら、こんなふうな角だったみたいよ」
言いながら、母親は指で長い一本の曲線を空中にえがき、それに沿うようにして短い間ごとに伸びるたくさんの横線を付け足した。
「へえ、ちょっとすてきじゃない」
「いいえ、それがそうじゃないのよ。その子はもうそれまでのその子とはまるで変わっちゃったんですって」
「あれ、おかあさん。さっきはほとんどいっしょだったっていってたでしょ」
「うん、見ためはね。でも、心や行動が全部変わっちゃったんですって」
繭からすっかり抜けだしてしばらくすると、男の子のしおれていた翅はしっかりとのび、少しすきとおって青白かった顔にもほのかに赤みと黄みがさした。彼は何も言わず、ひらかれた大きな窓の前までまっすぐに歩いていった。そして、彼の母親と兄の必死の呼びかけもむなしく翅を広げてはばたき、金色や銅色の鱗粉(りんぷん)をふりまきながら飛びさってしまったのだという。男の子の心の最後のひらめきだろうか、彼は飛びたつときに二しずくの涙をこぼした。そして、それらはきらりと光りながら宙を落ちていったのだという。
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by ototogengo | 2012-01-18 00:07 | はなし

Boris Vian 'Le Déserteur(脱走兵)'

一体誰が本当に戦争をすることを、戦争に行くことを望んでいるというんだろう。
いつでも聴かれるべき、今こそ聴かれるべき一曲を紹介します。



Le Déserteur(脱走兵)

大統領閣下殿
お手紙を差し上げます
もしも時間があるのなら
お読みいただけることでしょう

たった今
「水曜の夜に
戦地へ出発せよ」という
令状を受け取りました

大統領閣下殿
私は戦争をしたくありません
哀れな人びとを殺すために
わたしは生まれてきたのではありません

あなたを怒らすためではありませんが
言わなければなりません
私は決めました
私は脱走します

私は生まれてから
父が出征し、
兄弟たちが出征するのをみました
そして自分の子供たちが泣くのをみました

私の母は何と苦しんだことでしょう
今は墓の中にいて
爆弾にも平気で
ウジ虫どもにも平気です

私は捕虜だった時に
妻を奪われ
魂を奪われ
愛しい過去も奪われました

明日の朝早く
私は死んだ年月に別れを告げて
扉を閉め、
旅に出ます

私は物乞いをして暮らすでしょう
ブルターニュからプロヴァンスまでの
フランス中の街道を歩いて
人々にこう訴えるでしょう

「服従することを拒否しろ
 戦争を拒否しろ
 戦場へ行ってはいけない
 出征を拒否するんだ」

もしも血を流さなくてはならないのなら
どうぞ、あなたの血をお流し下さい
あなたは偽善者だ
大統領閣下殿

私に追手をかけるなら
憲兵たちにおっしゃって下さい
私は何の武器を持っていないから
撃ち殺しても構わないと


※永瀧達治さんの訳詞によっていますが、より伝わりやすくするために少し手を加えさせて頂きました。


フランスの小説家、トランペッター、歌手、翻訳家、俳優…40年に満たない生涯で八面六臂の活動をしたボリス・ヴィアンによる一曲。曲はもちろんですが、本人による詞もこの上なく切実で、しかも少しのユーモアを含んでいてすばらしいです。
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by ototogengo | 2012-01-15 19:41 | 本や音楽などの紹介

『蛍石の霜が降りる夜に』

深夜に外へ出ると、あたり一面に蛍石の霜が降りていた。緑から紫へ至るうっすら色づいたグラデーションでやさしくかすかな光が仄めいていた。しゃぐしゃぐと砕く感触を踏みしめながらゆっくりと歩みを進めていく。
まばらに灯る家々の窓からの明かりが夜に滲んでいる。屋根や樹との間からはほんの少しだけ欠けた、半ば溶けたように黄色くぼやけた月が下空に浮かんで見える。それらは霜にかすかな照り映えをあたえている。見上げると、大小たくさんの星ぼしが瞬き、呼吸をしているようだ。
(ああ、今夜はまたとない良い夜だ)
今日一日の歯がゆさも疲れも、満ちる感動をとっぷりと深めるのだった。
(布団に入ったらぐっすり眠れるだろう)
彼はさらにゆったりとして家路を歩き続けるのだった。
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by ototogengo | 2012-01-15 00:53 | はなし

『私の大好きな私の影』

私の影は運動神経抜群のお茶目なやつだった。私が垂直に跳びあがると、彼はいつも後方宙返りをしてくれたものだった。
ある日の昼下がり、たのしくなってそれを何度も繰り返すと、徐々について来れなくなった私の影の体勢が五回をこえたあたりから大きく崩れはじめ、九回目でついに着地を失敗して顔から地面に落ちてしまった。実のところ、彼を困らせようという悪戯心から私はわざとそうしたのだったが、ここまでの大惨事になるとは思いもよらなかった。

結局、彼の体重がとても軽いので大したことはなかったが、それからは私が跳びあがっても物真似しかしてくれなくなった。いくら謝っても、いくらお願いしても、彼は一向に私の望みを聞いてくれない。
しかし、少なくとも影は文句も言わず自らの役割を忠実に果たし続けているのだ。私はそんな私の影を立派だと思い、いつも感謝している。

これを機会に、みなさんもみなさんの影のことを気に留めてみてはいかがでしょうか?
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by ototogengo | 2012-01-10 00:39 | はなし