中島弘貴
by ototogengo
中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、音楽、絵、写真をやります。

2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。空島出版主宰。


【SNS】

twitter

facebook

mixi


【音源試聴】
soundcloud

my space


お仕事のご依頼、メッセージ等はこちらまで ↓
man_polyhedron@hotmail.co.jp
カテゴリ
全体
はなし
空島出版
出演、出展
言葉
言語
日記

写真

手紙
共作
本や音楽などの紹介
気休め
音楽集団“立体”
歌詞
未分類
その他のジャンル
記事ランキング
画像一覧


<   2013年 01月 ( 4 )   > この月の画像一覧

『光の結晶』

ここに引っ越して来たばかりの頃の、よく晴れた日の夕方の出来事。
小さな半透明の光の結晶を頭や服の上にびっしりとつけ、息子が帰って来た。それらはさまざまな金や銀や銅色を基調としており、見る角度によって七色に照り映えるのだった。太陽の光を浴びながら長く遊んでいたせいだろう。雪の結晶は六角形を基本に成長するが、光の結晶は木や珊瑚の枝に似た形が放射状をなして全体が円や楕円に近くなる。
妻が「この辺りではこんなことがあるのね。こんなにもいっぱいつけて。早く拭かないと、床や家具が濡れちゃうわ」と言い、息子は「えー、もったいないよ。不思議できれいなのに」と言う。そこで、私は二人に「拭く必要はないんだよ。光の結晶は液体を経ることなく固体から気体になるものなんだ。ドライアイスと同じだよ」と言った。
さて、それから光の結晶はおとなしい炎のようにちらちら、ぼおぼおと輝きあがって空中の四方八方へ真っ直ぐに放たれながら消えていった。それが全てなくなると、部屋のなかは少し明るくなった。それにしても、あの経緯を眺めながら夕食をとるのは、なかなか乙なものだったな。
[PR]
by ototogengo | 2013-01-26 16:59 | はなし

『岩のなかの透明な樹』

「象の体ほどもある巨大な岩が、この海岸には多くあります。複雑にひび割れていたり、穴の空いていたりしているものがほとんどです」

「岩を割ると、そのひび割れや穴が全体として樹形を成していることが判明しました。それには葉や花や実や芽などの異なる形が季節に応じて見られるので、岩のなかで透明な樹が生長していると推測できるのです。ちなみに、これは同じ岩の断面を一カ月ごとに写したものです。この部分が葉、この部分が花、この部分が実ですね。12月には葉が落ち、小さな丸い実がわずかに残ります。さらに一ヶ月後には冬芽がぽつぽつと現れ始めますが、これらは春になると開く葉の赤ちゃんです。実に可愛らしいですね」

「そして、これらの樹は形態の特徴によって幾つかの種類に分けられます。例えば、この岩のひび割れとこの岩のひび割れとでは、幹や枝の形が随分と違うでしょう?そのねじれ方や分かれ方をじっくりと観察すれば、よりはっきりと各種の違いを知ることができます」

「また、この辺りに落ちているさほど大きくない石を割ると、その中の空洞やひび割れが種や双葉を成していることがよくあります。つまり、それらがやがて樹に生長するんですね。一つの石や岩ごとに一本の樹の育つ場合が多いですが、幾つかの個体が共生している岩もあります。これまでに発見されたなかで、その数の最も多かったのがこちらです。幹や枝や葉などが複雑に交差して絡み合い、密集しています。調査の結果、九本の樹がこの岩のなかに生えていることが分かりました。一本一本を見分けることすら困難ですが、実に美しい模様になっているとは思いませんか」

「これらの透明な樹が、それぞれ隔たったところにある石や岩になぜ分布しているのか。その真相は明らかになっていません。風を媒介にして見えない種が元の岩から別の岩の中へ運ばれるだとか、見えない果実を食べる見えない虫や鳥に種を運んでもらっているだとか、元々途轍もなく大きな一枚岩だったものの中に種が散らばっていたが、その岩が割れてばらばらになったときに種も一緒に分かれた、などの諸説がありますが、どれも常識からすると信じ難いですね。特に、先に言った二つの説が事実だとすれば、実や種や虫や鳥が岩をすり抜けられねばならないという理屈になりますから」
[PR]
by ototogengo | 2013-01-24 13:08 | はなし

『わたしの家族』

大きなシャボン玉のなかをのぞきこむと、小さなわたしがいた。その小さなわたしは、わたしと似ているけれど少し違う。その小さなわたしもシャボン玉をのぞきこみ、さらに小さな私を見つめていた。そのさらに小さな私は、小さなわたしと似ているけれど少し違う。そして、わたしとはもう少し違う。そんな風に、わたしは小さくなるにつれて少しずつ違っていく。
すると、シャボン玉が割れた。ロシアのマトリョーシカという人形みたいに、わたしとシャボン玉から出てきた小さなわたしたちは大きい順に並んでいた。8人目まではなんとか見えたけれど、その先は小さすぎて見えない。
すると、小さなわたしたちはむくむくと大きくなって、みんなわたしと同じくらいになった。 たぶん全員で何万人もいたけれど、9人目から先はどうしてもわたしと似ていなかった。100人をすぎたあたりからは、どうしても人とは思えなかった。1000をすぎたあたりからは、どうしてもこの星の生きものには見えなかった。5000をすぎたあたりからは、生きものであるかどうかさえも分からなかった。
それでもわたしは、みんながみんなわたしの家族だと思っているので、何とか仲良くしていきたいと思う。
[PR]
by ototogengo | 2013-01-20 18:33 | はなし

『しっぽ』

何週間も続けて座り仕事をしていると、尾骨が痛み始めた。このままだと、近いうちにしっぽが再び生えてくるだろう。職業病というやつだ。
日本猿のように毛深くて短いもの、蛇のように鱗のある長いもの、西洋の古い絵にある竜のように螺旋を描くもの…これまでに様々なしっぽを持ってきたが、生活の上での不便こそ多けれ、便利なことは殆どなかった。何かと物に引っかかる、座ったり寝たりするときの邪魔になる、服に押し込むのが大変である、人から奇異の眼で見られる、などなど。そのうえ、それを取り除く作業は厄介極まりないのだ。医者にかからねばならないし、薬も飲まなければならない、さらには食事療法を一月以上せねばならない。考えるだけで気が滅入ってくる。まあ、どんなしっぽが次に生えるのかには興味があるし、それをさすったり掴んだり、その不思議な動きを眼で追ったりすることがそれなりに愉しくはあるが。
だから、私はこれから数日を外で、あまり腰を掛けないようにして過ごすつもりだ。経験上、そうすればしっぽの生える危険は遠ざかるから。
[PR]
by ototogengo | 2013-01-12 12:56 | はなし