中島弘貴
by ototogengo
中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、音楽、絵、写真をやります。

2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。空島出版主宰。


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<   2013年 02月 ( 3 )   > この月の画像一覧

『星雲を放す』

部屋の中で星雲を育てていた。緑や蒼や紅や紫に移ろう全貌が息づきながら収縮し、靄のごとく霞んだり、血のごとく濃密になったりする。時にオーロラを思わせる渦を巻いては流れて光り、時に大爆発を起こしては眩い輝きをしばらく保つ。不規則な電飾のように星の球がちかちか、ぺかぺかと点滅することもしばしばだった。
ある夜、繁殖して数と大きさを増した星雲が眠りを余りにも酷く妨げるので、堪らず窓を開け放った。吹き込む風に、カーテンが大きくゆれた。
部屋にはたった二つの子供星雲だけが残り、他は全て泳ぎながら外の夜闇へと四散した。彼らが曲がり角や藪の中や空の向こうに消えるまで見守り、心の内で「さようなら、元気でね」を言ってから窓を閉めた。
犬や烏に食べられたり、猫や人の子に弄ばれたり、強風にさらわれたりして、生き残れるのはほんの一部であるに違いない。しかし、あのまま部屋の中に居続けたら全滅の恐れもあった。 そうとは分かっていても、わたしは半ば自棄になって彼らを逃がしたために、自責の念に苛まれた。それから、「これで良かったんだ」「いずれこうするしかなかったんだ」と胸中で繰り返しながら、寝苦しい夜を過ごした。再び横になったわたしの頭上では、二つの子供星雲がまるで何事もなかったかのように、光りながら無邪気に遊んでいた。
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by ototogengo | 2013-02-24 23:34 | はなし

『影の授業』

ぼけっとした長身の男が教室に入ってきた。歳の頃は三十というところだろうか。髪に寝癖がついているし、皺の寄ったシャツがズボンからはみ出している。先生から紹介を受けたあとで挨拶をしたが、「はじめまして」の言い方も気が抜けていて頼りない。
授業が始まると、なんと彼の影が講習を始めた。実体の男の方はと言えば、資料のページをめくったり、黒板にチョークで代筆をしたりと、影の助手を務めている。
それにしても、大した影だ。博覧強記、かつ観察力も分析力も確実で、話の組み立ては巧妙、その声には自信に裏付けされた威厳がこもっている。そのうえ、人格者ときている。優等生への対応と劣等生への対応に全く差を付けないし、助手である彼の本体へも、事あるごとに謝意を表明している。もちろん、髪にも服装にも乱れはない。

その日、家へ帰って自室に戻ってからも、わたしの影とわたしとは、彼の影の話で持ちきりだった。
「それにしても、本当にすてきな影だったね」
と、改めてわたしが言うと、
「うん、同感。同族からすると、ちょっと憧れちゃうなあ。だけど、そのうちにあなたも、彼みたいに影から使われるようになるかも知れないよ。現に、前の試験の成績は私の方が良かったからね」
と、茶目っ気たっぷりに影が返す。
「そうだね。だけど、僅差だったよ。その前はわたしの方が良かったし」
と、わたしも茶目っ気を込めて。
「まあね。それにしても、昔に生まれて来なくて良かったよ。今が三十年前だったら、あなたと私が同等だなんて有り得なかったからね」
影はしみじみと言い、
「今だって差別が完全に消えたとは言えないけど、まあ、遥かにましにはなってるもんね」
と、付け足すのだった。
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by ototogengo | 2013-02-15 19:47 | はなし

『風邪をひく』

2月12日

晴れたので、掛け布団を干して家を出た。夜に帰宅して、すぐに室内へ入れた。
その布団を掛けていざ眠ろうとすると、どうも様子がおかしい。太陽のいい香りがするのは当然だが、じんわりと微熱を持っている。それだけならむしろ安眠を誘うのだが、のべつ幕なしに震えてもいる。今日は冷たい風が強く吹いていたので、布団が風邪をひいたのかも知れない。そういえば、夕方からの冷え込みも随分と厳しかった。
今のところ、布団の症状はさほど重くない。明日になったら回復しているといいが、悪化して咳やくしゃみまでするようになったら大変だ。念のため、暖房を点けたままで眠りにつく。

2月13日

暖房の甲斐あってか、掛け布団はすっかり良くなった。
安心して読書をしていると、折り癖が付いているように、特定のページが事あるごとに開く。と思えば、活字が動悸をうって膨張と縮小とを繰り返し、時どき挿絵が突発的に巨大化しては元に戻る。どうやら、掛け布団の風邪が本にうつったらしい。
放っておくと、本棚の蔵書に次から次へと伝染するだろう。処方を考えたが、タオルで包めばそれに風邪がうつりかねないし、温水につければ本が駄目になる。そこで、「風邪薬」という文字を栞(しおり)に記し、真ん中あたりに挟んで丸一日寝かせることにした。恐らく、これで大丈夫だろう。今日のところは安静にさせて、他の本を読むことにする。
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by ototogengo | 2013-02-13 21:59 | はなし