中島弘貴
by ototogengo


苔の彼について

その幾層にもなり、所所(ところどこ)に剥がれ落ちた苔の皮膚を、その奥に覗く橙色と桃色の混じった、水けを帯びた肉体を、みる

彼は話さない

彼は鳴かない

足音も立てず、土の上を辷るように歩いていく

よく湖や河のそばで見かけるが、水を飲む様子はおろか、水浴びをする様子すら見た試しがない

深夜から朝にかけ、彼はどっしりした樹の根の上で蹲り、微動だにせず眠るので、霧の濃いなかで早朝の散歩をするときには、彼の存在に気付かずに足を引っ掛け、危うく転びそうになることも度々だ

そのように(もちろん、わざとにではないが)蹴り飛ばされ、頭を地面にぶつけても、彼は決して目覚めない

いつものように、ようやく正午前に目覚めて体を起こすと、苔の皮膚の剥がれやひび割れがひどくなっていることに気づいて呆然と立ち尽くすのだが、ほんの5秒もするとけろりとして歩きはじめる
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by ototogengo | 2009-04-19 00:32 | はなし | Comments(0)
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