中島弘貴
by ototogengo


『きのこの人』

それは小さい、大きい、細い、太い、平べったい、つるつるした、でこぼこした、網のある…体に根差した沢山の種類のきのこに覆われた人でした

薄黄色、黄色、白、茶、褐色、橙、赤、深緑、薄紫…色とりどりに、同じ種類が比較的近い部分に集まって生えています

彼、もしくは彼女は恐らく裸なのでしょうが、服を着ているのか、着ていないのかも見分けがつかないくらい、きのこたちにびっしりと、にょくにょくと、にょきにょきと覆い尽くされているのでした

きのこたちは胞子を一斉に吹き出して、それらの大きさや色、形の違う夥しい小さな粒々が煙になって、その人の体から立ち昇ります

そのときに彼、または彼女がどんな気持ちでいるのか、知りたくてたまらないのですが、いくら話しかけても答えてはくれません

話ができないのでしょうか

しかし、この前の気持ちよく晴れわたった日の午後、

その人が男の人のものか女の人のものか区別のつかない、高くて細い綺麗な声で歌っているのを、たった一度だけ聴いたのです

それはそれは美しい歌でした

やっぱりあの人は言葉を話せるけれど、話をしたくないだけなのでしょうか

もっとも、それに詞はなかったので、あの人は声を発せるけれど、言葉は話せないのかも知れません

あるいは、あの人ではなく、きのこたちがみんなで歌っていたと考えられなくもないのです
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by ototogengo | 2010-04-28 11:59 | はなし | Comments(0)
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