中島弘貴
by ototogengo


『彼の頭の山』

緑で埋め尽くされた彼の起伏に富む頭は森というよりも山だった。樹々の葉は繁り、幹は節くれだって捻れるか、ずうっと高く真っ直ぐに伸びていた。幾層にもなった落ち葉や苔やきのこでいっぱいの土の芳しい香りで満ち、時に動物の匂いが混じり合って漂ってくる。河が流れ、せせらぎが、滝のごうごういう響きが、風が枝葉を擦らせる音と分離して同時に聴こえる。
和やかで色彩に富んだ春を、粗野なまでの生に溢れかえった夏を、ゆっくりと豊かに深まった末で俄かに過ぎ去る秋を、裸んぼうで雪の降り積もる冬を幾度か越えて、彼の表情はますます穏やかになっていく。その両の眼は鉱物のように静かで、しかも永遠にも通じる豊かな輝きを湛えている。そうして幾百年かが過ぎた頃、頭の山は全身に行きわたり、ささやかにいつまでも微笑んでいる彼を不動にした。
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by ototogengo | 2011-09-21 03:42 | はなし | Comments(0)
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