中島弘貴
by ototogengo


『山の冬』

「いくら大食らいのこのおれでも、これを全部飲み干そうとしたら腹がはりさけちまう」
山のぬしはびゅうびゅうごうごうと響きまわる吹雪を全身に受けながらいった。
「おお、このままじゃ芯まで冷えきってがちがちに固まっちまう」
そこで、彼は例年どおりぬくぬくした地中の奥深くまでもぐり、暖かくなるまでこんこんと眠りつづけることにした。
「はっは、ふう、ほっほ、ふう。はっほ、ふう、ほっは、ふう」
青から緑へ、緑から黄へ、黄から橙へ。彼は寒色から暖色へいたる土や砂や石の層をいくつもいくつも駆けぬけ、橙と赤のちょうど中間にたどりつくと、うつぶせになって身を横たえた。
「ああ、いい気持ちだ。背中は秋のまんなかみたいにひんやりして、お腹は春のまんなかみたいにぽかぽかしている」
そこからさらに何層か進んだところでは石がどろどろに溶けあい、真っ赤に燃えかがやいて湯気をたてているが、そこまでいくと跳びあがらずにはいられない熱さなのだった。
「一度しか行ったことがないが、あんなところはもうこりごりだ。真夏どころじゃないし汗ばむどころじゃない、むにゃむにゃ…」
彼はそう口ごもりながらぐいぐいと眠りに引きこまれた。背中がお腹と同じようにぽかぽかしはじめるときまで再び目覚めることはないだろう。
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by ototogengo | 2011-12-26 01:42 | はなし | Comments(0)
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