中島弘貴
by ototogengo


『宇宙の遊牧民』

宇宙の遊牧民たちは宙に放して一緒に暮らしている魚たちを連れて透きとおった黒い空間を渡っていた。時々、彼や彼女たちは歩きながらぴかぴかと角ばってくっつきあう黄鉄鉱の一欠けらを小さな布袋から取り出して食べる。それはすべすべと手触りがよく、ほんのり甘く冷たくて何億光年も移動する彼らを力づけるのだった。一方、魚たちには細かく砕かれた、さわやかないい香りのする桃色や青や黄や紫をした蛍石をそっと浮かべて与える。ぼんやりと光るそれらが魚たちに呑みこまれると、半透明の体をした彼ら自身も幽かに光を放ちはじめるのだった。

宇宙の遊牧民に永住の地はない。それが彼らの人生であり、そこには悩みや苦しみももちろんあるが、幸せやたのしみもまた多くあるのだ。数日前にはぷりぷりした一群の真ん丸い卵から魚の子供たちが生まれたし、今日は静止して羽ばたいている蜂鳥そっくりに見える深い薔薇色の星雲に遭遇した。星の死の強烈な炎と光に浸されたこともあったし、すみわたる静寂のなかを進むこともあった。

旅をしていると発見は尽きない。しばらく同じところに留まっているときも同様である。彼や彼女たちは今日も笑い合い、時に励まし合い、もっと稀に言い争いをしながらも宇宙を渡っていくのだ。
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by ototogengo | 2012-02-25 11:36 | はなし | Comments(0)
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