中島弘貴
by ototogengo


『シダを育てる恋人たち』

彼女は体のなかの洞穴に黄緑や深緑のシダ植物たちを育てている。すくすくと、さわさわと伸び広がって埋め尽くす。そのために、彼女の姿からは穏やかでやさしい風情がしみだしている。

彼は心のなかの洞穴に紅や臙脂色のシダ植物たちを育てている。にょきにょきと、わさわさと伸び広がって埋め尽くす。それは彼の気持ちを静けさと奥深さで満たしている。

そんな二人は当然のごとく出会い、当然のごとく意気投合した。
そしてゆっくりと、しかし確実に親密になり、信頼を深めあうのだった。
ある日、ついに彼は彼女に告白をした。
「実はぼく、心のなかでシダを育ててるんだ」
すると間髪いれず、彼女は驚愕しながらも安心して言う。
「そうなの!?わたしは体のなかでシダを育てているのよ」
道理で気が合うわけだ、と二人は納得し、その絆が断たれることはさらになくなった。

やがて、彼らのシダはぼうぼうと、ぐんぐんと成長してさまざまな緑と赤の混じり合う太古の森を生んだ。大樹になったシダ植物の数々、巨大な爬虫類や虫の類、湖にはやはり大きな魚たちや無脊椎動物群の姿が見える。そうして彼と彼女は森を育み、また森に育まれていつまでもいつまでも暮らすのだった。
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by ototogengo | 2012-03-08 20:05 | はなし | Comments(0)
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