中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、絵、音楽、写真をやります。
2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。 【SNS】 mixi 【音源試聴】 soundcloud my space お仕事のご依頼、メッセージ等はこちらまで ↓ man_polyhedron@hotmail.co.jp カテゴリ
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フランツ・カフカ『審判』
フランツ・カフカ『審判』を約十年ぶりに再読した。
覚えのない罪のために逮捕された男が正体の分からない訴訟に巻き込まれる。裁判所の下位の役人たちと接することはできるが、組織の上位の姿や仕組みは全貌どころかほとんど明らかにされない。訴訟の進行もまた不可解なことだらけで、例えば主人公のヨーゼフ・Kが頼んだ弁護士は半年を費やしても始めの願書すら完成させることがない。 この作品が未だに大きな説得力を持っていることは脅威であり、また残念なことでもある。それは訳も分からずこんがらがった社会に翻弄され、殺されていく人間の姿をまざまざと突きつける。カフカは観察した現在の対象を、その生々しさを損なうことなく超時代的な物語に昇華することのできた優れた作家だ。 『変身』や『審判』、『城』といった彼の代表作が強い共感を呼ばなくなるとき、社会はより良くなったと言えるかも知れない。それらの陰鬱とも言える作品群が評価されなくなったとしても、カフカには豊かな想像力と鋭いユーモアに裏打ちされた愉しい短篇も多くある。だから、そんなときが訪れるとしても彼の文学のすばらしさは損なわれないだろう。
by ototogengo
| 2012-06-27 01:37
| 本や音楽などの紹介
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