中島弘貴
by ototogengo


『服のなかの小鳥たち』

翼を広げて飛びまわる数十羽の小鳥が模様になっている袖なしのワンピースが彼女の大のお気に入りだった。
彼女は本格的に寒くなる前の着おさめにと、仲秋のある日にそれを身に纏って外へ出た。街なかを歩いていると、ワンピースが内側からの風に吹かれるようにして突然はためいた。同時に模様の鳥たちが南方へ向かって一斉に飛び出し、その空に浮かぶ影はどんどん小さくなってやがて見えなくなった。彼女は「あっ」と言ったきり、呆然としてその様子を見送るしかなかった。
帰宅した彼女は空っぽになった、かすかに緑みを帯びたその水色のワンピースを寂しい気持ちでハンガーに掛け、衣装箪笥へ大切に仕舞ったが、暗く狭い場所で退屈したり寒さに震えたりすることなく冬を越えられるであろう小鳥たちを想うと、胸のあたりがぼおやりと温かくなるのだった。

翌年の五月の晴れた日のことだった。彼女は空っぽになったそのワンピースを何となく取り出し、それを着て外へ出た。みずみずしい新緑の繁る公園のなかを歩いていると、遠くの空で光るたくさんの点だったものがぐんぐん近づいてきて鳥の姿になり、彼女の頭上で急降下して服のなかへ入っていった。その布は数秒間ばたばたゆらゆらしてから静かになった。小鳥たちの帰郷だった。
ほんの少し大きくなったようにも思える、服のなかで羽を広げて飛びまわる小鳥たちは、今年も秋までそこで過ごすんだろう。彼女はやさしく微笑んで彼らのその様子を眺めているのだった。
[PR]
by ototogengo | 2012-07-08 22:49 | はなし | Comments(0)
<< 『青銅のきみへ』 高円寺ミッションズでの初めての... >>