中島弘貴
by ototogengo


『心を割る』

「あなたの心を中心部で割り、その断面を観察してご覧なさい」

「樹のような、山脈のような、星空のような、街並みのような、靄のような、河や滝や海のような、細胞の群れのような、火や風のような模様が混在して変化していく様子が見られるはずです」

「それは感情や思考の状態、つまりあなたの心境をあらわしています。それらは渦を巻いているのか、まっすぐ流れているのか、飛沫(しぶき)が散っているのか、その動きは速いのか遅いのか。何よりもその様子が好ましいか厭(いと)わしいか、うつくしいか醜いかを、よおく観察して考え、判断することが肝要です」

「ああ、その点はどうぞご心配なく。心の眼と心の手を使ってやさしく慎重に割れば、傷が残ることは殆どありません。乱暴に割らざるをえないときもあるでしょうが、大怪我にはまずなりません。むしろ、割らないと致命的なときの方が遥かに多いんです。淀み、腐り、ごみ溜めになっていても本人が気付くことは難しいので、ずっとそのままにしておくと悪臭を放ったり、かちこちになったり、ぐずぐずに溶けたりして恐ろしい状態になります。それでも本人は当たり前のように生きていられますが、それでいて生きることがどうしようもなくつまらないんです。一方で、無理をして割ることによって多少の傷跡が残ったとしても、その後それをすばらしい心の一部として生かせるかどうかはあなた次第だと言えるでしょう」

「それでは、今ここで割ってご覧なさい。大丈夫、いつだって遅過ぎるということはないんですから」
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by ototogengo | 2012-08-29 22:39 | はなし | Comments(0)
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