中島弘貴
by ototogengo


『影の食事』

「人の影は、食べ物の影を食べて生きています」

「人は基本的に、明るいところで食事をします。あまりにも暗いところにいると食べ辛いし、美味しさも損なわれるように感じられますからね。だから、基本的には人が食べ物を口にすると同時に、人の影が食べ物を口にしている様子も見える。それこそが、影が食事をとる姿だというわけです」

「しかし、暗闇のなかで長くいると、人の影というやつは盗み食いをすることがあります。この林檎は、本体は手付かずなのに影の上部が欠けています。ほら、こうやって光を当てると、歯形のついている様子までもがはっきりと分かるでしょう?」

「これは、私の影が齧った跡なんです。私の影は盗み食いをするのが癖になっていましてね…。私が暗い場所にいるときや寝ている間はもちろん、明るい場所にいるときでも、どうにかして食べようとしやがるんです。この間も本を読んでいたら、私の影が篭(かご)に入った苺の影に手を伸ばしているところを見つけたので、その手をひねりあげてやりました。ははは、まったく…油断も隙もない、食い意地の張ったやつだと思いませんか」
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by ototogengo | 2013-04-15 17:47 | はなし | Comments(0)
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