中島弘貴
by ototogengo


『母から聞いた心のはなし』

子供のころ、母がわたしにこう言った。
「強い風に吹かれているときは、心をしっかりとつかまえておきなさいね。そうしないと、心が飛んでいってしまうのよ。あとで心を取り戻せる場合もあるけど、それは簡単なことじゃないからね」
「無防備な心は透明な布きれのようなもので、そんなにしっかりとしたものじゃないのよ。飛ばされてしまった心は別の生きものになるの。そうね、まるで水母(くらげ)のようになって、風に乗ってひらひらしながら、ぐんぐん離れていくの」
「すると、心を失った人は寒くて寒くてたまらなくなる。別のものを自分のなかに入れてまぎらわそうとしても、全然だめか、少しの間あったまったあとで余計に寒くなるの。結局、ぴったりと合うのは心だけなのよね。そうやって、近くにあるものや目立つものを取っかえ引っかえしながら入れたり出したりしているうちに、心はますます離れていく。そうやって、心を一生取り戻せなくなる人も珍しくないらしいわ。だから、強い風に吹かれているときは、心をしっかりとつかまえておきなさいね。それでも、心が飛ばされてしまうようなことがあれば、例え大変でも、がんばって心を探すのよ」
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by ototogengo | 2014-07-15 23:47 | はなし | Comments(0)
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