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中島弘貴
by ototogengo
中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、絵、音楽、写真をやります。

2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。


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変身

きのこの傘に丸っこい小さなイボイボがたくさんできていて、歪(いびつ)な水玉模様のようになっている。そのイボイボの一つ一つが少しずつ膨らみ、光沢をおびた球形の果実に変わっていく。それらはさらに膨らみながら、シャボン玉のように次から次へと、きのこの傘から飛びたつ。それらの球体はふわふわと漂いつつ、上へ上へと昇る。そして、そのようにしながら光を放ちはじめる。水色、桜色、翡翠(ひすい)色、檸檬(れもん)色、紅(くれない)、藤色、群青(ぐんじょう)、生成(きなり)色…それらの球体の一つ一つはそれぞれに異なる淡い色をおび、息づくように明滅しながら暗闇のなかを昇っていく。

やがて、それらの球体の下部がほぐれはじめ、ふんわりと開いていく。そして、その球体の各々(おのおの)が、発光する水母(くらげ)に変わっていく。半球形の体をもつ水母もあれば、紡錘形や円盤形や餃子(ぎょうざ)のような形の体をもつものもある。水母のそれぞれがもつ触手の数や長さや太さもさまざまで、その色も違えば、その透明度も違う。水母たちは漂ったり、膨らんでは縮んでを繰り返したり、触手をひよひよと動かしたりしながら昇りつづけ、光り方を変えていく。無数の細かい輝きをおびて表面がちらちらと光るもの、燃えるように内側からぼおっと光るもの、体を縦につらぬく数本の透明な繊毛の列が多彩かつ細やかに瞬くもの、爆発するような閃光を全体から放射するものなど、その光り方はそれぞれに異なる。

やがて、河のような流れになった光り輝く水母の群れが、あちこちからやって来て合流する。すると、水母の群れの全体はより大きな、より密度の高い流れに成長しながら、さらに上へ上へと昇っていく。水母たちの放つ多様な光が上下左右に、手前に奥に重なりあい、混じりあい、動きつづける。それは想像を絶するほど壮麗な音楽のようで、わたしたちの貧しい感覚ではとても捉えきれない。感覚はとっくに溢れかえっているのに、その光はさらに強く、広く、深く、精妙になる!その光を眺めていると、夢のなかにいるような気もするが、それはすばらしく冴えわたった夢だ。いや、その光をただ「眺めている」と言うよりは、「体験している」と言った方がいいだろう。わたしたちは取り憑()かれたように、その光の体験に魅了されるしかない。

やがて、水母たちの透明な体が半透明の暗闇のなかに溶けこんでいく。だが、それらが放つさまざまな光はますます鮮やかさと複雑さを増しながら、全天に広がっていく。その夥(おびただ)しい光は、星雲や恒星や彗星や惑星や衛星などのそれなのだ。眩暈のするほど複雑な輝きが、途方もなく複雑に運動している。そのような輝きを繰り広げながら、宇宙は絶えまなく速度を増しつつ膨らみつづける。


by ototogengo | 2017-10-19 22:08 | はなし
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