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中島弘貴
by ototogengo
中島弘貴
多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、絵、音楽、写真をやります。

2011年に解散したバンド“立体”では、うたとギターを担当。


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詩 50

5月13~14日に書いた三作。


「痛み」

わたしたちは絶えず吹く風に削られて
      絶えず降る雨に穿たれて
      何度ちぎり取られたか、
      何度くずれ落ちたか

それらの切れ端はどこへ行った?
それらの破片はどこへ行った?
どこでもない場所へ消えた そして、
別の場所からしみ出して、鍾乳石をつくった
なぜなら、わたしたちがそれらの痛みを覚えていたから

洞窟のなかで鍾乳石の数々がぼんやりと光る
青白く、降り積もった雪のように、ゆらめく幽霊のように
そのなかを、わたしたちは裸で探検する
痛くて寒いから、鍾乳石からつみとった光を身に纏う
一つ一つがたんぽぽの綿毛のような光
わたしたちが手にとると、それらは色を変える
淡い緑に、淡い赤に、淡い黄に、淡い紫に、淡い白に
それらが複雑に混じったものもあるし、青白いままのものもある
それらは温かい、だが温かすぎてはいけない
温かすぎると、石たちが溶けてしまうから



「しの対話」

生者たちが死者を何度も何度も思い出す
そのたびに死者を蘇らせ、殺し、蘇らせ、殺し、蘇らせ、殺し、
死者は蘇るたびに違う人になる、殺されるたびに違う人になる
一人の死者が何百万人、何千万人と存在しなければならないのか
これまでに存在した死者の数は全地球の砂粒の数よりも多いのではないか
全宇宙の星の数よりも多いのではないか、
銀河系には星が千億以上あり、全宇宙には銀河が何兆もあるらしいが
一粒一粒の砂が死者の「体」になったときに砂嵐がおこったら
一つ一つの星が死者の「体」になったときに宇宙が膨張したら
――冒涜です!死者を何だと思っているんですか!
――砂自体が生物の死骸であることも多いみたいです。死者はそれほど特別でしょうか?
――人間には魂があるじゃないですか!
――それでは、他の生物には魂がなくて、星にも魂がないということですか? 生物はもちろん、非生物のほとんども星くずから生まれたらしいのに。
――魂というのは心です! 心のある人間には尊厳があります!
――確かに、人間以外に心があるかどうかはわかりません。だけど、心というものはそもそも物質の……



「失われても」

自分の持ちものが何もかも失われても
友だちも家族も、すべてが失われても
自分自身は残される
それで充分なのかもしれない

最期に、自分自身の命さえ失われても
人びとも文明も、すべてが失われても
この世界は残される
山も海も、虫や原生生物の一部も、
太陽も月も残される
それで充分なのかもしれない
できるかぎりを試みたなら

最後に、宇宙そのものさえ失われても
星ぼしも空間も、すべてが失われても
名づけえぬ何かは残される
いや、残されると言えるかどうか
それで充分なのかもしれない

by ototogengo | 2018-05-14 01:04 |
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