中島弘貴
by ototogengo


カテゴリ:詩( 69 )

詩 68

6月20~21日に書いた三作。


「透明」

無数の氷たちが降りそそいでいた
水晶のような大小さまざまの六角柱になって
一部や大部分が欠けたものも多い結晶として
まだらのある灰色の雲のもと てらみらと光って

それらは あまりにも透明なので
冷たい戦慄とともに わたしたちをつらぬく
傷もつけずに通りぬけて 地面をも通りぬける
ミミズやセミの幼虫やモグラたちも戦慄を覚えるだろうか?

痛みのないことが痛みだ
わたしたちは すでに数えきれないほど傷ついていて
これ以上傷つくことはないのだろうか
透明な氷たちは わたしたちだった?
欠けた結晶たちは わたしたちだった?

今 降りそそぐ氷が雨に変わる
雨水が外からも内からも わたしたちを溶かす
わたしたちは溶かされて 割られて 流されて
それでも痛くないと言える? かなしくないと言える?



「幸せ」

幸せになりたいだけなのに
幸せになるための手続きが多すぎて
すでにある幸せさえも殺されてしまう

幸せのありようは一人一人ちがうのに
一匹一匹 一本一本 一つ一つちがうのに
かってな幸せをおしつけられて不幸になる

幸せは初めからあるのだ
世界を見、聞き、嗅いで、味わい、触るだけでいい
そのように感じられる隙間があれば それがすでに幸せだ

内なる幸せをはぐくまずに
外なる幸せだけをはぐくんだところで何になるだろう
内と外との驚くほど豊かな反応こそが幸せのみなもとなのに



「幻の渚より」

渚に半透明な灰色の海が寄せては返す
白い飛沫(しぶき)や泡をともなって
時々 波が思いのほか伸びて
あなたの脚とその影を濡らす

見上げると 大きさのちがう二つの太陽は純白
おそろしいほどの 痛いほどの純白
時々 太陽の一方が あるいは両方が ひび割れて
そのなかから太陽のこどもが現れて
初めは完全な透明で やがて 白く輝きはじめる
輝きはじめた短時間だけ その全体に虹色をめぐらせて

その変化に魅了されていると
灰色の波が あなたとその複数の影をのみこむ
影たちは それぞれが異なる多彩に染まっている
だから あなたは あなた自身が透明であることに気づいたが
もう遅い あなたの全身に巻き貝や二枚貝やヒトデがはりつく
形も色もさまざまなそれらが 影たちにもはりつくが
それぞれの影につく種類はまるでちがう
絞り染めのような巻き貝や 天使の翼のような二枚貝
イモガイやタカラガイ ウミウサギやツキヒガイ 
カラスウリの花を生々しくしたようなヒトデや 
時々 波に角をとられて宝石のようになったガラスのかけらまで

あなたとその影たちから珊瑚が生えはじめ
ゆっくりと しかし 急速に成長して樹のようになる
そこに魚たちも イソギンチャクたちも ウミウシたちも
エビもカニも 紅藻も緑藻も褐藻も住まう
あなたとその影たちは一つながりになって
森のようになって 山のようになって
そこから灰色の海が青や緑に変わっていく
海中にとどく白い光の網模様も 金色や銀色に変わっていく
ますます増える影たちは黒く巨大になって深海にしずみ
そこに降りそそぐ雪たちは ますます白くなって
色とりどりに光るクラゲたちや イカたちや 魚たちに
時々 照らされて 海底に降り積もって 星の砂になって

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by ototogengo | 2018-06-21 22:37 | | Comments(0)

詩 67

6月17日に書いた三作。


「ひとりごと」

あなたの傷からほとばしる赤い血が
金や銀にかがやいて きらめいて
やがて 赤さすらなくして 金属の霧と化して
それは あなたの痛みをつぐないはしない
だが 涙がこみあげるほど美しい
その美しさをあなたにもみせられたら
      あなた自身も愛することができたら

痛みがあなたのまなざしを精錬したのではないか? それほどまで透明に
そのまなざしがとても好きだ
ことばにつくせないほど

だから もう充分でしょう
世界よ あなたをこれ以上痛みつけないでください どうか



「きせきのなかのきせき」

自分一人の未来さえ確かではないから
あなたとの未来は さらに不確かだ
それは約束ではなく 願いだ
ひたすらの願いでしかない
あなたとわたしを見つめながら
強く 強く 紡いでみても
あまりにも か弱い か細い
だからこそ その実現は奇跡

美しいものをつくることに似ている
それもまた約束ではない ひたすらの願い
世界とわたしを見つめながら
高く 高く 築いてみても
あまりにも 朧(おぼろ)で 儚い
だからこそ その実現は奇跡



「本当の奇跡」

確率からすると すべての物事が平等に奇跡だ
なぜなら まったく同じ物事は存在しないのだから
わたしたちからすると 奇跡のなかの奇跡が存在する
その本当の奇跡をめざし 星のような憧れと共にすすむ
一度 その願いが燃えつきても絶望することはない
平等な奇跡にみちた宇宙が わたしたちと共にあるのだから
それでも 本当の奇跡をめざし 何度でもすすまずにはいられない
そのたびに「本当」の見せかけが どれほど変わろうとも
                              そうだ!

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by ototogengo | 2018-06-18 01:16 | | Comments(0)

詩 66

6月11~15日に書いた三作。
意識していなかったが、“うた”あるいは“歌”が三つの詩のすべてにふくまれていた。


「特異点」

生きることがくるしいときは
世界の中心にのがれる
自分の中心にのがれる
そこでは台風の目のように流れがとまる
おびただしい流れのすべてが釣りあう

透明な青の深さよ
大きなゆらぎのなかの一瞬 特異な一箇所(いっかしょ)
そこから うたが生まれる
     宇宙が生まれる
     すべての流れが変わる!



「宇宙の構造」

光は 水晶を歌う
水晶は 光を歌う
目も 一緒に歌う

闇は 身体を歌う
身体は 闇を歌う
夢も 一緒に歌え

わたしは 世界を歌う
あなたは 世界を歌う みんなが
それぞれの世界を歌う、
さいげんのない 歌のなかで

※身体は(からだ)と読んでください



「うたう」

こころもからだも すべてが傷口なのだった
ふりしきる雨音の そのひとつぶ ひとつぶさえも、
わたしたちをうがつ 水気をはらんだ時間が侵食するなかで

そうして かたちをなくしたときから始まる
痛みよ うたえ さけびによって消化することなく
うたいつづける たゆたう光を やさしく はげしく

わたしたちは弱いままなのだった
だからこそ 愛せるのだった

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by ototogengo | 2018-06-15 22:57 | | Comments(0)

詩 65

6月8~12日に書いた三作。


「予感」

運命がわたしを傾斜させる
上下左右にゆさぶりながら さらに さらに
斜面に心が ぽつんと乗っかっている
それは命をもつが 物質でもある

傾斜があるところまで進んだとき
心は急速度で 成すすべもなく すべりはじめる
それは内側から ふくらんで
   外側の凹凸にぶつかって 一気に破裂する

わたしはできるかぎり耐えつづけた
だが そのときは近い
もうやめてくれ



「森をたべる」

薄暗い森のなか
色褪せた茶色や灰色のなか
色々な花たちは目においしい
色々な茸(きのこ)たちは目においしい
ほら 点々と あちら こちらに光る
空まで伸びる木々と
落ち葉や枯れ枝の堆積のなか
かぐわしい腐葉土の香りのなか
光り  光る 光って  光る
それらの道しるべをたどって

様々な花や茸の形 艶やかな花びらや傘
やわらかな萼(うてな)や襞 それらに集まる虫たち
ほら ここには蜘蛛の透明な網
ああ 蚊に刺された額がかゆい

密度を増しながら広がる時空間

ほら  苔に 地衣に  粘菌に   冬虫夏草
ひらひらと舞う光は蝶か  それとも蛾か 
全身全霊で森をたべる



「愛」

自然がわたしをはるかに超えているから
自然を愛さずにはいられない
あなたがわたしをはるかに超えているから
あなたを愛さずにはいられない
わたしはわたしをはるかに超えているから
この世界のひとつひとつの存在をつぶさに

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by ototogengo | 2018-06-12 21:44 | | Comments(0)

詩 64

6月6~7日に書いた二作。


「ある詩人から」

なぜ「はい」は「いいえ」よりも弱い それは
「いいえ」が「はい」の反発であるせいか では
「はい」に反発する「いいえ」に反発する「はい」があれば
それは強いのではないか 苦難をのりこえた賛歌のように

わたしたちは繰りかえし繰りかえし打ちひしがれた
生きることを愛するからこそ 愛したいからこそ 痛
みつけられた そのぎざぎざの傷口が光を放つまで 受けと
めて 知りぬいて 切りかえて 生きのびた わたした
ちは孤独になった すべてになった そこから
もう一度はじまる 何度でもはじめられる
だから どうか生きていきましょう こうやってずっと



「まっすぐ」

みんな まっすぐ育ったのだった
内外の世界の平衡をとって
できるだけ まっすぐ育とうとしたのだった
その結果 ねじれてしまった
おれてしまった くるってしまった
そのせいで まっすぐだとは信じられないのだった
もともと ねじれた巻き貝を誰が責められるだろう
嵐にたおされた樹を誰が責められるだろう

わたしたちは それを知らずに否(いな)みあうのだった
知ったうえでも 否みあわずにはいられないのだった
その二つは同じようで まるで違う
純粋な知性は いつも完全にまっすぐだ!

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by ototogengo | 2018-06-07 22:30 | | Comments(0)

詩 63

6月5~6日に書いた三作。


「明暗」

わたしたちは分裂している
わたしたちは二重だ
いや    三重だ 四重だ
わたしたちがそれに耐えられるのは
それらすべてをつつみこむ
より大きな己があるからだろう
星ぼしをつつみこむ暗闇のような
その暗闇が強烈な光にかき消されるとき
わたしたちは弾け飛ぶ
色とりどりの鮮やかな花火の連発
そのように美しい狂気が明滅して



「頌歌」

恋愛には多大な力がいるから
相手によって報いられるべきだろうか
いや そうではない
恋愛をもつこと自体が最上の報い
ただ あなたを 世界を讃える



「ああ」

ことばを失うとき
現実をも失っているのだった
こころがうたわない

あるいは

ことばを失うとき
現実は満たされているのだった
こころがうたいつくして

ああ 夜は静まりかえって

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by ototogengo | 2018-06-06 14:44 | | Comments(0)

詩 62

6月3~4日に書いた三作。


「書くよろこび」

書こうとすること
それは事実の再現などではない
そのようなものではありえない

ことばによって透明な網をなげること
狩りのように 漁のように
感覚を 思考を 幻想を
記憶を 事物を ことばを
絡みとって たぐりよせて
ことばとそれらを数珠つなぎにする
大樹のように分岐させること
蛍のような生きた光をいくつもいくつも飛ばすこと



「体を澄ませて」

光たち まっすぐに下る
花たち 舞いながら散る
葉たち いろいろな緑を放射する
燕たち  円を描いて飛ぶ
近くから雛たちの声
ちいちい ぴいぴい降る
見上げれば太陽を背にした巣
雛たちは黒くなって見えない
燕の親たち まっすぐに昇る
別々に 青空を斜めに切って



「調理」

時間の指がわたしをちびちび引きちぎり
わたしの肥やしにする
そう 考えるひまもなく食べつづけて
おいしくも まずくもない
生のままでは

光によって焼け
闇によって焼け
愛と夢と死に漬けこんで
切れはしだけといわず からだごと こころごと
世界の味わいが変わるまで
幻のように痛い 幻のようにおいしい

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by ototogengo | 2018-06-04 23:53 | | Comments(0)

詩 61

5月31~6月1日に書いた二作。


「喪失」

すべてはあらかじめ失われている
永続するものはないし、何よりも
「わたし」はいつか死ぬのだから
途中で失っても、あるいははじめから得られなくても
喪失を先取りしただけのこと
だから、無くても生きていける
たとえ、どれほど大切な存在であっても



「表現者たち」

呪われた表現者は世界への呪いを表現せずにはいられない
祝福された表現者は世界への祝福を表現せずにはいられない
表現なしには現実をやりきれないという意味で、両者はともに呪われているのだろうか
だが、それによって現実をやりきれるのなら、祝福されているのだろうか

ああ、呪いでも祝福でもかまわない
それらが終着でなく出発であるならば!
停止でなく通過であるならば!
わたしたちが自分自身と世界の双方をより良く、より大きく、より豊かに育むために

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by ototogengo | 2018-06-02 23:15 | | Comments(0)

詩 60

5月28~30日に書いた二作。


「軌跡」

視界にある全ての風の軌跡をまざまざと見よ
それにより、視界にない風の軌跡も想像せよ
それらはまるで素早い巻雲のように、
鳥の羽に似た模様を描きながら移ろう
眼前に、地上に、上空に移ろう、
わたしたちをすっかり包みこんで
この惑星をもすっかり包みこんで

風と雲の違い、透明と白の違い、それは光を通すか跳ね返すかによる
ならば、青や緑や黄や赤や紫、橙や桃や藍もまた近い、黒でさえも遠くない、
光の反射と吸収の組み合わせの限りない豊かさよ
視覚と脳によるそれらの変換の限りない豊かさよ



「読む」

雪の結晶の詳細によって大気を読むように
言葉の結晶の詳細によって発言者を読もうとして
その読みの詳細がさらに自分自身を読むことを導くから

鉱物の結晶、眼差(まなざ)しの結晶、仕草の結晶
それらの形状、色彩、密度、強度、速度、距離、範囲などから
何を読める?何を読み誤りうる?

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by ototogengo | 2018-05-31 18:26 | | Comments(0)

詩 59

5月27~28日に書いた三作。


「可・不可の先へ」

見えない法廷が世界中に遍在している
わたしたちは常に審理と審判を受けつづけているのだった
それらは無数のものであると同時に一つのものだ
審理の大半は審判が下されたのちに正体をあらわすので、前もって準備できない
いや、正体が明らかにならないものばかりかもしれない
わたしたちが審理と審判を受けていることに気づかない場合さえ度々だ
だが、それらは今この瞬間も不断に行なわれている、
あまりにも徹底的に、恐ろしいほど徹底的に
見えない法廷は、この世界そのものだと言ってもいい
あらゆるものが裁かれるもので、かつ裁くものだ

かろうじて知りえた審理をもとに、じりじりと不可を可に変えていく
不可が可に変わるにつれ、別の可が不可に変わる
どれだけ不可を可に変えようとも不可が減るとはかぎらず、むしろ増える場合さえ度々だ
いいだろう、それでもわたしたちは挫けない
少しでも「好ましい可」を増やし、少しでも「厭わしい不可」を減らすために
問題は可・不可の量ではなく質にある



「愛とは」

形容しがたい想いをもって
「あなた」と呼びかけたい人は
そのときにただ一人だ
その人をただ愛する
遠くにいるが近づきたい人を

別のときに「あなた」は
別の人でありうる
そのたびに「愛」は
別のものになる
いや 同じ「あなた」への「愛」も
常に同じではありえない

ただし 「あなた」への「愛」は
いつも純化されている
泣きたくなるほど満ちあふれて



「進むために書いて」

虐げられ、孤独にされた
それらは呪い、それらは祝福
理由はささいなものだった
たぶん、理由とはいつでもささいなものだ
だが、その結果は時をへるにつれて、ますます大きくなる
ささいな理由が繰りかえし繰りかえし積みかさなって
絶対に引き返せない
どうしてもある状態に戻りたいなら、
進みながらそこへ近づくしかない

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by ototogengo | 2018-05-29 08:24 | | Comments(0)