カテゴリ:詩( 107 )

詩 107

10月21~31日に書いた三作。


「みなもと」

わたしたちのうちにある 記憶と忘却の河
毛細血管のように 多数の枝分かれをする
それらの水は育つ 体と心の養分をえて
巨樹のように 実と虚の合いの子として
さまざまな花が咲いては散る地帯とともに
ああ 息づく香りにあわせて 水面がきらきらと歌う

わたしたちは河の水に浸されている?
流れのまにまに漂っている?
あなたは本当にそこにいた?
そして 今はどこにいるのだろう
あなたとわたしには同じ水がある?
だとすれば そのみなもとは一体?

水のなかで浮かんでは沈む わたしたち
まとわりつくのは夥しい泡や落ち葉たち
ゆらめく光をうけて 淡い玉虫色に移ろう
間(あわい) 実と虚が世界を建てる
無数にして ただ一つの間
それがみなもと?



「星の海」

わたしたちは粉々に砕かれる
その破片の数々が光を撒き散らす
壊れるのは簡単で 直すのは困難だ
そもそもの初めから 歪んでいたとしても

水よ いつ 柩たちを巻きこんで
羊のような雲に 白馬のような波に変えるのか
それは まさに今 空が多種の宝石の雹を降らせるときに
そう 今日も 狂乱ではなく 相談のように 生誕する現象たち
すれあう葉っぱたちのように ふれあう恋人たちのように 歌って

誰もが星だ 太陽であり月だ
照らし 照らされて ただ一つではありえない
みんな孤独だ みんな同類だ
黒真珠色にゆらめく海のなかで
破片の数々が煌めく

※柩(ひつぎ)、雹(ひょう)



「宇宙が先か その卵が先か」

余剰
それがわたしたちを豊かにした
ただ生きるだけではいられなくした
役に立つことばかりでは息苦しいから より賢く より美しく
ああ 自由がなければ 人生は牢獄だ

具体化した魂は昆虫のように透明な翅で飛ぶ
狐のようにしなやかな脚で駆ける
雪のように対称性と一回性をもって結晶する
その中心には球形の宇宙があり 星たちが光る 燃える

寄せては返す空間 伸びては縮む時間とともに 変身する器たち
獣になって 鉱物になって あるいは草木になって
自我は量子と似て 現れては消える
天地開闢の前から 余剰は常に存在したのではないか?

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by ototogengo | 2018-10-31 01:20 | | Comments(0)

詩 106

10月12~19日に書いた三作。


「透明」

自分自身によって 世界のすべてによって
切り刻まれながら 細切れにされながら 透明にとけあう
自分のなかをあらゆるものが通りぬけ あらゆるもののなかを自分が通りぬける
つかまえて つかまえられて

ああ 何もかもが歌っている その鮮やかな振動
最小の単位たちが 線香花火のように 光と闇を呼吸する
くり返し くり返し 弾け飛びながら
空も 水も 大小さまざまな波紋の数々で満たされて ゆらいで

わたしたちを曙が染めあげる
わたしたちを昼日が 黄昏が 夜闇が 月や星が 別々に あるいは同時に
透明な 体のどこを 透明な 心のどこを
指先まで? 奥底まで? 反転し 裏返り 表返り 縮み 伸びて

生きつづけるほどに 不透明になりながら かたくなになる わたしたち
それでもなお やわらかく 大きくなって 透明へ向かうことができたら



「終わりのないうた」

現実が夢を強引に意訳する
それどころか 現実そのものが 真実の強引な意訳
秩序の王国よ その網はあまりにも粗い
そうして 混沌は殺された ようでいて 逆襲する
あくまでも わずかな怨みさえ まじえずに

秩序の王様たち 裸の王様たる わたしたちよ
謙虚であらねばならない
網を細やかにして 混沌をつかまえようとして
一生をかけて それでも足りないと思えるほど
遊べ!



「樹の生長」

光があたって透きとおった葉たちは鉱石に変わる
細やかな葉脈はそのままに それらの薄さもそのままに 硬く
風にゆられて ぶつかりあい 輝きのような響きが高く 広く
紅葉し 黄葉し 落ちて 降り積もり
行き交うものたちに踏み砕かれて 合唱する
景色と音楽は何を物語る?
あなたとわたしは 異なるものを読む
そして 別々に奏でた波がまじわって

ああ 海よ なんと多い なんと大きい
おびただしい生と死を巡らせて 銀河のように 瞬く 羽ばたく

石たち 歯たち 骨たち 貝たち 家たち 精神たち
潜りながら 昇りながら ぶつかりながら 火花を散らしながら
土を超えて建築せよ 時を超えて歌い継げ
宙(そら)よりもやわらかく行きわたれ
密に 密に 増えよ 殖(ふ)えよ

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by ototogengo | 2018-10-19 22:11 | | Comments(0)

詩 105

10月2~7日に書いた三作。


「てんかん」

きみよ さようなら
日々よ さようなら
季節以上に移ろいやすい 幽霊たちが彷徨う街よ
現よりも幻が重いから
さようなら さようなら
花の香りのように降り積もるから

きみたちは もう ここにいない
私もまた 別のところへ行こう
いながらにして いなくなる前に
行かなければ そう 生きるために

金属のように光る甲虫や蜻蛉たちよ
そのいろいろな輝きが 私の全身に映る
水玉や波紋や雲紋をもつ鱗翅目たち
そのさまざまな模様が 私の全身を覆う

四本の手足が指先まで 四種の異なる樹々になった
体毛の一本ごとが 粘菌の子実体や苔や地衣類になった
生産者たち 消費者たち 分解者たち
それらを無数にかかえて 一つの精神が巡る

ああ そのように生きてゆくために

※雲紋(うんもん)、子実体(しじつたい)



「ぎゃくせつ」

痛みに慣れると 咲き誇ることができない
ああ あれほど 生々しかったのに 美しかったのに
それでも 無数の痛みが絶えず 雨だれのように わたしたちを穿ちつづける
わたしたちの数十年を わたしたちが建てつづけて結晶化された生活を

無数の風によって 期せずして 扉たちは開閉する
せめて 自分の意志によって開閉する扉もつくること
風のいくらかを解き放つために つかまえるために
風雨が結晶を彫刻する



「どこから来て どこへ行く」

全身全霊を澄ませると
開かれた目に 耳に 鼻に 口に 肌に 内臓に
胞子が漂着する 花粉が漂着する
それらの根や菌糸が体のなかに張り巡らされ 心のなかにも及び
やがて きのこや草木の花が咲く
ひいては 群生して 胞子や花粉を撒き散らす

わたしたち自身 大きな胞子や花粉のようなもので
この宇宙のなかを遍歴する 宇宙の精神のなかをも
寄生して 共生して 咲いて 散って
果実になって きのこになって 子どもを産んで 死ぬ 死ぬ
その死体が腐り 全身を包みこむ皮膚という皮膚が裂ければ
ちかちかと明滅する無数の光と闇が現れ
それらがまた 胞子や花粉の大群となって
時空間を超え あちこちへの 旅を続けて
死んで 生きて 死んで 生きて

ああ 正しく生きるとは どんなこと?
正しく死ぬとは どんなこと?
進化が止まらないというのは よいこと?

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by ototogengo | 2018-10-16 21:58 | | Comments(0)

詩 104

9月26日~10月1日に書いた三作。


「願い」

大きな 大きな紡ぎもの
糸の一本ごとに異なる色がついて 異なる力が宿る
それぞれに硬さも滑らかさも違うから
一本ごとが異なる音を奏でる弦になる

生きものたちが蠢く 森の深みにまで紡いだ
死骸の雪が降り注ぐ 海の奥底にまで紡いだ
素粒子たちが太陽系のように巡る 空のみなもとまで紡いだ
合唱が なった 交響が なった

見えない糸をふくみ
聞こえない音が歌われ
知らない手が紡いだ
知らないところと 知らないときへ向かって



「二者択一ではなく」

毎秒ごとに痛めつけられて
開いては閉じる傷たちが 交差しあう痕(あと)になると
干渉しあう光が さまざまな色に移ろう
まるで 玉虫のように
傷は良いものですか 悪いものですか
あふれでた血は 土に染みこんで 流れになって
分岐する河になって 紅い海にとける
ああ こんなにも多くの血をだしたのは あなたたち?
ああ そちらに涙の海も広がって
陸地は ますます狭くなる

血と涙によって 痛みは計れない
透明な空もまた 痛みと苦しみに満ちて ゆらいで
そこから いくつもの宇宙が生まれる

あの人たちは 心の底から笑っているのでしょうか
幸せは良いものですか 悪いものですか



「矛盾ではなく」

肉体に閉じこめられた私が
部屋に閉じこめられ
都市に閉じこめられ
さらに吹きすさぶ風に閉じこめられ
成すすべもなく揺さぶられている
ああ 私のなかでも嵐が渦巻いて

私たちは何重にも閉じこめられ 虐げられ
内なる嵐をいやが上にも いやが上にも育む
やがて それは私たちを突き破り 世界へと踊りでる
部屋を超え 都市を超え 大気を超え 光よりも素早く
立ちならぶ檻をなぎ倒して 駆けめぐる星ぼしを吸いつくして
その質量は幾つもの次元を歪めるほど大きい その恐るべき密度

幻が 言葉が 歌が その弱さゆえに虚無から解き放たれた
強すぎる現実よりも強く ただ 飽くまでも弱く そして 美しく

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by ototogengo | 2018-10-16 21:53 | | Comments(0)

詩 103

9月21~22日に書いた三作。


「きこう」

目のなかに 雲が幾重にも広がって
紅い稲妻さえも 繰りかえし走って
ああ その奥から 月が姿を現して
あたりの薄雲を 真珠色に輝かせて

目のなかに やがて朝が来るだろう
朝焼けが 雲を複雑に染めるだろう
ああ 色と形が美しく移ろううちに
白目が真っ青に晴れわたるだろうか

その透きとおった目には何が見える?



「どこにいて どこへ行く」

進みつづけた 覚えつつ忘れた
進みつづける 得ながら失った
いつまでつづければ 良いのか
堆積する時間が 圧し潰すから
断面を 垂直から水平に変えよ
そう この瞬間は途方もなく大きい

過去も未来もないならば 現在もまたない
永遠は わたしたちを生かす わたしたちを殺す
そう 垂直と水平を 何度でも切りかえて
   垂直と水平を 統合する全体を生きて
めまいのなかに 身投げしつづける
頭のなかが渦巻いて 割れるように痛い
いつから? いつまで?
ああ また切りかえなければ!
これが 生活するということか
    生存するということか



「放射」

さまざまな流れと さまざまな淀み
それらのすべてが わたしを虐げる
それらは多すぎるし 強すぎるので
逃れることなんて 絶対にできない
世界よ 遠慮なく力をふるうといい
いや 初めから遠慮などないだろう
わたしは できるだけ避けてみせる
あとは できるだけ受けとめてやる
その苦しみから 歌を紡ぎだすから
鮮やかに 煌びやかに 幻覚が踊る
走ったり回ったり 飛んだり泳いだり
その軌跡が刻んで そして 建てる
抗いの狭さから始めて 遥かに広いところへ
立って 散って 縫って 照って 掘って 放って 射る

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by ototogengo | 2018-09-30 00:35 | | Comments(0)

詩 102

9月18~20日に書いた三作。


「現実の森 比喩の森」

照葉樹林 落葉樹林
光と風によって ざわめいて きらきらと
途方もない豊かさをください そう 恐いほどの
さまざまな命たちの大変な密度 それが時間を加速させる

(数日前に このきのこは生えていなかった
 それも あれも こんなにもたくさん!)

ああ 巡りゆく季節
規則に支えられた不規則が 大量の死と生を呼ぶ
道は繰り返し 繰り返し 分かれた その不可逆な森
繰り返し 途絶えた道を 化石により 遡行すること

(一年前には この小さな流れはなかった
 あれも それも 今年は雨が多かった)

昼と夜 温度と湿度
木の実や傘や翅が開いては閉じる
はばたいて ばらまいて
さらされて ながされて 

(雨は強まったが わたしたちは ほとんど濡れない
 頭上を覆う 葉っぱたちの広大な屋根!)



「じゅうそう」

わたしたちの死も生も ほとんどが償われない
何ものによっても それらは決して償われない
ただ わたしたち自身だけが それを規定できる
そのわたしたちを規定するのが何ものであろうと

生まれたときに いや 生まれる前から わたしたちは世界に投げ出された ここにある引力は一様ではなく わたしたちはあちこちに引きよせられ 押しのけられ 踊るように 複雑な道を辿った

わたしたちと星ぼしとに 何の違いがあるだろう!
星ぼしが わたしたちになり わたしたちが 再び星ぼしになる
どれほど小さなものの内にも星があり どれほど大きな宇宙の外にも何かがある

胞子が 種子が 石が 虫が 都市が そして 星が そう 何もかもが
光と闇をはらんで明滅する 有と無をはらんで軌跡を描く
ああ その緻密で壮大な模様よ



「人罰」

規格化された社会の 規格化されたものたち
そう 人の姿と心さえも 規格化へと向かう
それは遍在するから 虹の出来損ないになる
それは外界と内界の共作で 誰にでも見える
ああ 全てを代わり映えなく 塗りたくって

わたしたちは逃れなければならない
この静かな闘争に しゃぶりつくされないように
わたしたちは 内からも外からも 磨耗していく
ああ 本当に嫌だ 絶対に 許したくはない

耐えつづけること そんなものは美しくも何ともない
抗いつづけること そんなものもまた
怠けてもいいではありませんか
負けてもいいではありませんか
そうして幸せをあじわうことは罪ではない!

※人罰(じんばつ)

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by ototogengo | 2018-09-30 00:30 | | Comments(0)

詩 101

9月14~15日に書いた三作。


「時空の干満」

不規則に満ちては引きながら わたしたちは侵食される
それを引きおこす月は どれほど多くある?
わたしたちのまわりを 光りながら巡って
一日のなかでさえ 月蝕と日蝕が 何度となく現象する
それらの天体は紅くなって 黒くなって 光の環(わ)に縁どられて

満ちては引くたびに わたしたちの虚空が広がる
その場所から何が生まれる?
虚空に呑まれず 虚空を足がかりとせよ
そこでなら わたしたちは飛べる 存分に遊べる
あることと ないこととを 触発させよ



「共犯」

わたしたちの全身から生える たくさんのみずみずしい芽
葉のような芽や 鱗のような芽や 角のような芽や 顔のような芽
それらを摘みとって 全身を荒野にするのは何もの?
          現在と未来を荒野にするのは?

わたしたちは乾きに乾く
枯れはてた幹と枝のようになった 体と手足
手指と足指は小枝 肘や膝や踝(くるぶし)たちは瘤(こぶ)
わたしたちを束ねて 躊躇なく火を放つのは何もの?
わたしたちは燃えて 薪のように赤くなり黒くなる

もの言わぬ死体の山 まるで 生きたことがなかったかのような
その落ち窪んだ瞳に語らせよ その二度と閉じない口に歌わせよ
せかいを摘みとって 森林を荒野にするのは何もの?
          未来永劫に 荒野にするのは?

どれも これも わたしたちではないし わたしたちでもあった



「重奏」

両目いっぱいに湛えられた 涙の湖
そのなかを魚たちが泳ぎ 甲殻類や昆虫や微生物たちが漂い
その底には 水草や貝類たちもいる
泣けない 涙を流したなら それらの生きものも流れてしまうから

涙の水面に映る 外の世界 木々や空や鳥や海
それらも それぞれに世界をもっている
いくつの世界が重なる?
湖のなかにも 湖のみなもとにも 世界があるのだから

泣けないために 涙の湖が凍りつく
時には 泣きなさい 泣きなさい
命をめぐらせるために

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by ototogengo | 2018-09-30 00:26 | | Comments(0)

詩 100

9月9~12日に書いた三作。


「たより」

闇のなかを降りそそぐ雨 震えながら 光りながら
草木の葉っぱたちが揺れる
その裏側で雨宿りする虫たちも濡れる
ああ きみたちは どんな気持ちでいるの
今 このときにも 宇宙空間は静まりかえっている

そちらは晴れていますか
一方で そちらは雪降りですか
他方で そちらは虹が架かっていますか
ああ オーロラが踊っているのですね
今 このときにも 宇宙空間は……

こちらは雨粒と雨音でいっぱいです!
目を閉じれば たくさんの波紋が
闇のなかの水面に 広がっては消えてゆく
飛沫を散らして 干渉しあって いろんな落ち葉も浮かんで
さあ 虫たちもおいで 溺れないように気をつけて
今 このときにも 宇宙空間は……

遠くにいる あなたたち
目を閉じれば この景色が見えますか
どうか そちらも美しい便りをください



「光」

なんという苦しみ 「したこと」と「しなかったこと」が
運命を囲いこんで 「できたこと」と「できなかったこと」が
このようになるとは「想像できなかった」 そうだ 絶対に

無知が原罪であるなら どうして罰されなければならない
初めから 罰されると決まっているようなものではないか
生きとし生けるものは罪と罰とともに生まれ 共に暮らし 死んでいく

やるせのない怒りをかかえて 生きていたくはないのです
不条理に思えてならないのは わたしたちの条理に合わせて
この世界がつくられているわけではないからでしょう

受苦 受苦 じゅく じゅく 受苦 じゅく じゅく
わたしたちは怒りに囚われず 別の何かをするべきだ
困難な生によって光を放射し その無数の光線によって紡ぐ

美しいことを諦めはしない そうだ 絶対に!
たとえ 美しさが生存そのものに必要ではないとしても
豊かな生存のためには どうしても必要だ それこそが光!



「波たち、命たち」

夜のなか 寄せては返す月光
そのまろやかな光のやさしさ
波頭が砕ける 木々の枝先で 山の出っ張りで
それによって 波紋ができて 小波が生まれて
寄せては返す月光は 精妙な模様でおおわれる

ああ 風がふく
月光は さらに複雑な移ろいを繰り広げ
そのなかを 風に散らされた 花や葉や種がたゆたう
あの流れる雲たちと同じく まろやかな光に縁どられて 彩られて
時に 鳥たちが黒い影となり 光の点や線となりながら それらを咥え去る

波が返していく 返していく
月は水平線の近くで楕円に膨らんで 薄紅色に変わっていく
紺色の海の波に 桃色の光の道が淡く重なる
いくつもの波やうねりが 幾層にもなって
さらに あちらから朝陽が昇りはじめる ああ 

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by ototogengo | 2018-09-14 23:09 | | Comments(0)

詩 99

9月8日に書いた三作。


「物語」

たくさんの指紋がこびりついた 透明な扉
風雨に繰り返し痛めつけられた 木製の扉
もはや開閉することもできない 錆びた扉
鬱蒼とした蔓植物におおわれて 隠れた扉
その扉たちはそれぞれに物語る 多声的に
個々の扉として 扉という道具全体として
粒子の集合として 多層構造をもつ歴史を
最も長い歴史は 宇宙の始まりからの物語

科学によってしか辿れない物語もあれば
芸術によってしか辿れない物語もある
推理よ 想像よ 実践よ 三位一体
となって 欠損を補え 満たした
あともなお 溢れるかえるほど
に ああ これほどまでに ああ 果てしなく豊かに!



「てんてん」

からだのなかの宇宙で 星ぼしが光り
星雲たちが流れる 生まれては死にながら
その下には湖があり 外界を映す 風が吹いて 波がたって
その水の底に降りつもる 景色や幻影たちは 結晶して 天に落ちて

その間にも からだは食べずにはいられない 眠らずにはいられない
なかなか寝つかれないときには 転々としながら 夢想して

さようなら きみたち はじめまして あなたたち
みんな混じりあって 星ぼしになる 星雲になる 彩られて 輝いて



「無」

空間のなかにあるものは見えるが 空間そのものは見えない
時間のなかにあることは知れるが 時間そのものは知れない
ましてや 時間も空間もない無を どのように捉えればいい?
それでも 無には何かがある 世界がこのようであるために

ああ 全く同じ小さな単位でできた あらゆるもの
なぜ それが鉱石や魚や虫 水や菌や人に変わるの? 組み合わせによって?
なぜ その組み合わせごとに性質が決まっているの? 何のために?
わたしたちの認識には 超えられない地平線がある たとえば ビッグバン
それ以前に何があったのかは 誰にもわかりえない

無と無限は似ているが 少なくとも 無限に「限りがない」
ことは確かだ 無については「限りがない」かさえもわから
ない 宝石や鳥や草 火や藻や猿 まずは それらから無限
に近づくことだ そうすれば 無にも近づける? それとも

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by ototogengo | 2018-09-10 23:36 | | Comments(0)

詩 98

9月4~7日に書いた三作。


「拡張」

水たちは歌う
石たちは歌う
虫たちは歌う
山たちは歌う
星ぼしも歌う
それぞれに違う歌を
合わせて一つの歌を
それぞれの声を聞き
そのことばを読んで
別のことばへと至る
ああ 歌に合わせて踊ろう
かけがえのない一度限りの
そのたびに全ての歌たちが
全てのことばたちが変わる
永遠に踊りきれないだろう
樹々に合わせて きみに合わせて
日々に合わせて 千々に合わせて
美しく変幻する世界を身にまとう

※千々(ちぢ)



「浮沈」

夜の重さは わたしたちの内から発する
その暗さと静けさは死に似ているだろう
いや 生に終わりがあるという実感にか
わたしたちは抗う そして 沈黙を破る

そう 現在も地球のどこかの砂浜は真昼
そこでは 波が輝きながら寄せては返し
色々な巻貝や二枚貝や角貝やその貝殻が
打ちあげられたり沈んだりを繰り返して

夜の重さは 宇宙のすみずみから発する
その暗さと静けさは死以前のものだろう
というよりは 死を超えたものだろうか
わたしたちは眠る そして 沈黙に還る

闇のなかで 色々な貝殻だけが浮遊する
輝いて 百色の光の欠片を無数に放って
それらはいくつもの軌道に沿って渦巻く
やがては銀河や星雲になって星々を生む

※現在(いま)、百色(ひゃくいろ)



「みちみちて」

幾億もの 幾兆もの 蛇行たち
分かれたり 合わさったり 途絶えたりする 道たち
曲がりくねったり とぐろを巻いたり まっすぐに伸びたりする
ああ 微細な鱗が 多彩な宝石を散りばめたように きらめいて
組みあわさって巨樹となって それに生る実を蛇行たちが食べる
産めよ 殖えよ みちみちて みちにならえ 陸海空の命と共に

揺りかごに ゆられながら 棺桶に ゆられながら
模様たちが 時間たちが 不可視の波たちが 語る
宇宙の卵は いくつある?
この宇宙の外に そして わたしたち一人一人の内に
宇宙がどれほど殖えるかは わたしたちの関係と孤独とに かかっている

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by ototogengo | 2018-09-08 12:57 | | Comments(0)